経済

「積極財政」は日本を救うか

経団連の21世紀政策研究所の経済政策レポートが発表された。財政タカ派の財界から、こういう「積極財政」論が出てくるのは珍しい。メンバーは永濱利廣、飯田泰之といった(今は亡き)リフレ派だが、もはや金融政策の話は何も出ていない。メインは「高圧経済」つまり財政赤字で経済を刺激しろという話である。

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理論的な中身はブランシャールの「最適財政論」とほとんど同じで、新味はないが妥当なところだろう。日本のようにずっと需要不足の続いている社会で、政府がプライマリーバランス赤字ばかり心配するのはおかしい。

来年度の骨太の方針でもPB黒字化目標を書くかどうかという下らない話でもめる原因は、財政運営の基準となっているGDPギャップに過少評価バイアスがあることだ。ISバランスで考えると、

 財政赤字=貯蓄-投資-経常収支黒字

なので、恒常的に「貯蓄>投資」になっている日本では、ある程度の財政赤字がないと、貯蓄過剰(需要不足)を埋めることができない。いいかえると均衡が必要なのはプライマリーバランスではなく、

 財政赤字=民間の需要不足

となるように財政運営すべきだということだ。このレポートのいうように財政赤字がすべての問題を解決するとは思わないが、日本のようなゼロ金利では当面ラーナーの機能的財政論が正しい。問題はその長期的影響である。

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「ジョブ型正社員」の偽善

大学の研究者が、来年3月で雇い止めになるという問題が、最近また話題になっている。これは私が9年前のコラムで書いた「5年雇い止め」と同じ問題である。



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「内部留保」を減らして「一億総株主」を実現する税制改革

岸田首相は、当初は金融所得課税の強化を提唱していたが、来年度の骨太の方針では逆に「貯蓄から投資へ」というスローガンを打ち出し、自民党の経済成長戦略本部は「一億総株主」を提言した。

貯蓄から投資へというのは昔からいわれているが、いまだに日本人の金融資産のうち預金・現金が54%である。アメリカはその逆に株式・投信が48%なので、次の図のような大きな差がついてしまう。この異常なリスク態度が、日本人が貧しくなった大きな原因だ。

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日米の家計金融資産の推移

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高橋洋一氏の間違いだらけのバランスシート

アゴラの記事に、ツイッターでコメントがたくさん来た。いちいち答えるのは面倒なので、ここでまとめて答えておこう。

いちばん多いのは「日銀当座預金は負債ではないのではないか」という疑問だが、これについては短い答がある:次のように日本銀行の貸借対照表の負債の部に「当座預金522兆円」と記載されており、これが負債であることに疑問の余地はない。

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問題は日銀当座預金に「実質的な債務性」があるのかということだが、これは金利がつくのかという問題に帰着する。これについても、黒田総裁が明確に答えている。彼は今年2月15日の国会で、こう答弁した。

ありうるシナリオとしては、将来2%に物価上昇率が近づいていくと、出口という議論になりますし、一つのあり方として政策金利が引き上がってゆく。そうなると当然、日銀当座預金に対する付利の引き上げなどによって支払い金利が増えてゆくことから逆鞘になる可能性が論理的にはある。

だから日銀当座預金は形式的にも実質的にも負債であり、借方と貸方が一致しない高橋洋一氏のバランスシートは誤りだ。彼が日銀の資産として計上した714兆円の保有国債は、それを買った日銀の負債(大部分が日銀当座預金)と相殺され、連結では統合政府の負債に計上されるのだ。

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国債は日銀以外の民間金融機関も保有しているので、その負債が947兆円(年金債務なども含む)。そして純資産(負債-資産)が540兆円の債務超過である。これは財務省のバランスシートにも書かれている。続きを読む

統合政府は540兆円の「債務超過」

このごろ三角関数がいるとかいらないとか論争が続いているが、高校の三角関数は文系にはいらないと思う。それより大事なのは、簿記の知識である。高橋洋一氏は、テレビで「政府の連結バランスシート」と称して、次のような図を出している。

簿記を知っている人がこの図を見たら、驚くだろう。資産と負債が対応していないからだ。複式簿記の基本は借方と貸方をバランスさせることだが、これだと政府は資産超過だから、徴税の必要がない。

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暗号資産の暴落はバブル崩壊の予兆か



暗号資産が暴落している。図のようにビットコインはこの半年で50%以上さがり、「ステーブルコイン」と称するテラUSDは95%以上さがって、ほぼ無価値になった。この原因は単純で、今まで金余りで暗号資産に流れていた余剰資金が、金利上昇で撤退したからだ。

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WSJより

クルーグマンは、こういう投機が投機を呼ぶバブルは歴史上何度もくり返されたものと同じで、時価総額3兆ドルといわれる暗号資産は、サブプライムローンの崩壊がアメリカの不動産バブル崩壊のきっかけになったのと同じ役割を果たすかもしれないと警告している。

特に問題なのはステーブルコインである。暗号資産はドルとの為替レートの変動が激しすぎるので決済手段としては使えないが、為替レートを固定すれば安定する。これがFacebookがリブラで実現しようとしたものだが、連邦政府に阻止された。

他にもテザーやUSDコインなどのステーブルコインがあるが、ドルとペッグしたプリペイドカードのようなもので、暗号資産の意味がない。注目されたのは、そういう担保なしでレートを固定する数学的アルゴリズムを開発したと称して急成長したテラUSDのような無担保型である。

このしくみは複雑だが、ステーブルコインはほとんどの人がドルと換金しないことを前提にした人為的バブルで、すべての保有者が一挙に換金する取り付けが起こると崩壊してしまうのだ。そういう意味では日銀券もバブルだが、そこには決定的な違いがある。

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政府と日銀を連結した「統合政府」の債務管理が必要だ

安倍元首相の発言が論議を呼んでいる。発言の内容は「日銀は政府の子会社だから、国債の60年の満期が来たら借り換えられるので心配ない」とのことだが、これは安倍氏の持論で、間違いではない。

野党が「日銀の独立性を侵害する」と騒いでいるのは見当違いである。正しく理解しているのは、国民民主党の玉木代表だけだ。

中央銀行の独立性は普遍的なルールではなく、1970年代のスタグフレーションのとき、中央銀行が財政従属になり、政府の景気対策の財源を調達するために金融を過剰に緩和したことからできたルールである。

日本でも1980年代のバブルを日銀が止められなかったという反省から、1998年に日銀法が改正されたが、このときは政府機関に国会からの「独立性」を保障するのは憲法違反だという議論もあった。

しかし今は政府が「悪い円安」を恐れて「物価対策」の補正予算を組む一方で、日銀がインフレを起こすために量的緩和をやるという逆転が起こっており、日銀の独立性というルールは時代錯誤である。むしろ日銀が関東軍になるのを防ぐために、統合政府の債務管理が必要だ。

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赤字国債の禁止は「戦後レジーム」か

ウクライナ問題を受けて、来年度予算の防衛費増額が焦点になっているが、WiLL6月号の安倍元首相と北村滋氏(前国家安全保障局長)の対談の中に、ちょっとおもしろい話がある。安倍氏は「赤字国債の発行を禁じる財政法4条は戦後レジームそのものだ」というのだ。財務省の逐条解釈にはこう書かれている。

第四条は、健全財政を堅持していくと同時に、財政を通じて戦争危険の防止を狙いとしている規定である。

戦争と公債がいかに密接不離の関係にあるかは、各国の歴史をひもとくまでもなく、我が国の歴史を見ても、公債なくして戦争の計画遂行の不可能であったことを考察すれば明らかである。公債のないところに戦争はないと断言し得るのである。したがって、本条はまた憲法の戦争放棄の規定を裏書保証せんとするものであるとも言い得る。

安倍氏はこれについて2016年の衆議院本会議で、共産党の質問に対して「これは財政の健全性の規定であり、戦争の防止は立法趣旨ではない」と否定した。逐条解釈は役所の法令解釈だから、それを首相が否定するのは異例だが、この解釈は誤りである。

財政法4条で定めているのは、公共事業に使う建設国債(特例公債)である。それ以外の経費については、毎年国会で特別法を立法して国債を発行する。これが赤字国債であり、予算案とは別に議決が必要だ(財務省の解説)。

これも儀礼化した手続きなので、実務的には建設国債と赤字国債の区別は無意味だが、来年度予算では重要になる。防衛費は将来世代の資産になるので、社会保障のように今の老人が食いつぶす消費支出とは違い、公共事業に近いのだ。

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1ドル=150円の世界



1ドル=130円になったが、日銀の黒田総裁のきょうの記者会見は、円安を止める気がないことを示している。それは一つの考え方である。円安で輸入インフレが起これば、2%のインフレ目標は達成できる。任期があと1年の彼にとっては最後のチャンスだ。

もう一つの理由は、彼がインフレより円安の効果を重視しているからだろう。物価が2%上がってもほとんど生活に影響はないが、民主党政権時代の1ドル=80円が黒田時代に120円になったことは大きな影響をもたらした。日経平均は8000円から2万円になり、輸出産業は息を吹き返し、インバウンドで観光業は急成長した。

しかし130円以上の円安になると、輸入品の価格が上がって100円ショップはなくなり、電気代やガソリン代は大幅に上がるだろう。インフレ率は2%をオーバーシュートするが、黒田総裁は「安定的に2%」になるまで量的緩和をやめないだろう。

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ISバランス(兆円)と為替レート(右軸)

ここで円安予想が形成され、キャピタルフライトが起こると、2000兆円の家計金融資産の1割でも動けば、一挙に1ドル=150円ぐらいになる可能性もある。これは1985年のプラザ合意のあと「円高で大変だ」と騒がれた時期と同じで、ISバランスが均衡する自然為替レートに近い。では何かいいことがあるだろうか。
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「資源インフレ」を止めるには原発再稼動が必要だ

岸田政権の「物価高対策」が発表された。「インフレ対策」とか「円安対策」といわないところがポイントである。3月のコアCPIでも0.8%と、日銀のインフレ目標2%に達していないのに、なぜ物価高対策なのか。

参議院選挙の前にバラマキをやるため、当初は使い残している予備費でやろうとしたが、公明党が「補正」という形を求めたので、6.2兆円の事業規模になった。経済政策としては無意味な補正予算である。

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