贈与で協力を作り出す「一般エコノミー」

極限の思想 バタイユ エコノミーと贈与 (講談社選書メチエ)
バタイユは、古典派経済学のような生産と交換にもとづく限定エコノミーの概念に対して、浪費と贈与にもとづく一般エコノミーを提唱した。前者は、たかだかこの300年ぐらいの西欧圏にしか通じない経済学だが、後者は石器時代からの人類の経済行動を説明するものだ。

限定エコノミーで人々が求めるのは有用性(utilité)だが、一般エコノミーでは栄光(gloire)である。共同体の首長が村中の人を集めて宴会を開き、全財産を浪費するとき、彼は栄光を得て、人々に貸しをつくる。宗教的な儀礼にも有用性はないが、それに協力する人々は共同体のメンバーであることを確認する。

それは進化ゲーム理論でいうと、コミュニケーションで味方と協力し、敵とは戦う秘密の合言葉(secret handshake)と呼ばれる戦略である。この戦略は強力で、囚人のジレンマやチキンゲームを一般化した共通利益ゲームでは、つねに贈与で最適解が実現できる。贈り物は、この合言葉である。贈られた人は返礼の義務を負い、返さないと村から追放される。

このとき贈り物が有用である必要はない。むしろ村の外では価値のない土偶のような浪費が望ましい。有用な物は返礼しないで持ち逃げできるが、土偶を持ち逃げしても、村の外では役に立たないからだ。限定エコノミーで満たされるのは利己的な欲望だけだが、一般エコノミーでは社会を支える利他的な協力が生み出されるのだ。

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巨大な古墳はなぜ生まれ、なぜ消えたのか

古墳とはなにか 認知考古学からみる古代 (角川選書)
日本古代史の大きな謎は、古墳である。全国に15万もあり、最大の大仙古墳(いわゆる仁徳天皇陵)は、全長486メートル。建設には20年かかり、当時のGDPの半分が費やされたともいわれる。

この巨大な墓に実用的な意味はまったくないが、3世紀に農耕が大規模化し、階層分化が起こった時期に生まれたので、豪族の権威を示すために巨大な陵墓がつくられたものと思われる。これを「**天皇陵」と呼ぶのは根拠がなく、大仙古墳がつくられた5世紀前半には、まだ各地に地方国家が分散していた。

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大仙古墳(大阪府観光局)

地方豪族の競争の中から、国家を代表する「倭王」と呼ばれる王が出てきて、その権威を誇示するために大きな墓をつくったものと思われる。ところが国家が統一されて倭王の権威が高まった5世紀後半から、古墳は縮小し、普通の墓になってしまう。それはなぜだろうか。

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デモクラシーは古代から現代まで「エスニックな共同体」

我々はどこから来て、今どこにいるのか? 下 民主主義の野蛮な起源
近代デモクラシーの歴史は短く、合衆国憲法までさかのぼっても、230年あまりの歴史しかない。それと古代ギリシャのデモクラシーにはほとんど共通点がないが、一つあげられるのは、それがエスニックな共同体だということだ。

古代アテネで民会に参加できたのはアテネ市民だけで、外国人や奴隷は除外されていた。アメリカ独立宣言は「すべての人間は平等につくられている」と宣言したが、合衆国憲法では、先住民と黒人奴隷は「人間」から除外されていた。

大英帝国が世界を支配したときも、イギリス国民には同じ権利があったが、植民地の住民は同じ人間とはみなさなかった。この二重構造が、大英帝国の世界支配を可能にした。合衆国憲法はそれをまねたもので、英米型デモクラシーは白人の平等主義だったのだ。

この構造は20世紀前半まで続いたが、戦後のアメリカでは大きな変化が起こった。一つは高等教育の普及によって上昇する白人と没落する白人が分化したこと、もう一つは公民権運動などで黒人の地位が上昇し、白人と競合する労働者になったことだ。それを決定的にしたのが、1990年代以降のグローバリゼーションだった。

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文化を生んだのは言語ではなく「自己家畜化」

家畜化という進化ー人間はいかに動物を変えたか
人間と類人猿をわける最大の特徴は言葉が使えるか否かだが、これは明らかに遺伝である。その原因も最近は特定され、FOXP2という遺伝子(塩基配列)と関連があることがわかっている。人間とチンパンジーのDNAでは、FOXP2の配列に2ヶ所の違いがあるのだ。

他方、家畜化(domestication)に関連するBAZ1Bと呼ばれる遺伝子があることも、最近わかってきた。これは神経堤幹細胞に関連し、家畜には少ない。人間でも、ある種の発達障害(ウィリアムズ症候群)の人には少ないが、彼らは極端に社交的で、お人好しでおしゃべりだ。

人類(ホモ・サピエンス)がネアンデルタール人との競争に勝った原因は言語だといわれていたが、最近、ネアンデルタール人の遺伝子にFOXP2が発見された。つまりネアンデルタール人も言葉を話す能力をもっていた可能性が高いが、BAZ1Bは他の霊長類と同じだった。

ところが人類のBAZ1Bには変異がみられ、これが自己家畜化と関連があると思われる。人類が生存競争に勝った原因は言語ではなく、自己家畜化による集団生活だったのかもしれない。言葉は一人で使っても役に立たないからだ。

他人と仲よくなるBAZ1Bの変異で、集団生活できるようになったホモ・サピエンスが、言葉でコミュニケーションするようになり、それが文化を生んで集団の結束力が強まり、自己家畜化がさらに進む…というループが起こったのかもしれない。

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宗教は遺伝するか

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(下) (NewsPicksパブリッシング)
獲得形質は遺伝しないというのは、中学の理科で習う常識だが、最近の生物学では自明ではない。もちろん文化が遺伝子(DNA)を変えるわけではないが、どういう個体が多くの子孫を残せるかを決め、間接的に遺伝形質を変える。

たとえば人類(ホモ・サピエンス)の犬歯は、類人猿に比べて退化し、チンパンジーのように敵を噛み殺すことができない。これは石器の使用(200万年前)で敵を殺せるようになり、火の使用(100万年前)で肉が柔らかくなったことによる進化と考えられる。

もっと最近の例としては、外婚制(近親婚の禁止)がある。これは中国では数千年前からあるが、ヨーロッパでは古代後期からといわれている。その起源については長い論争があるが、外婚制によって親族以外との交流が深まり、国家や宗教ができたと考えられている。

外婚制と宗教には相関があり、大規模な社会ほど外婚制で、普遍主義的な宗教(道徳)をもっている。その典型がヨーロッパで、人口の移動で戦争が増えて親族集団の同一性が崩れたため、普遍主義的なキリスト教だけが共通の価値観になった。

それに対して多くの「未開社会」は内婚制(いとこ婚が可能)で、親族集団の相互交流が少ない。こうした社会では親族集団が閉じているので、キリスト教のような普遍主義的な宗教はできず、地域ごとにアドホックな神を信じることが多い。その典型が日本である。

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日本の物価はなぜ上がらないのか

世界インフレの謎 (講談社現代新書)
世界的にインフレが進行しているが、日本の消費者物価上昇率は、先行指標の東京都区部の10月の総合指数でも3.5%。円安で輸入インフレになるといわれたが、輸入物価は1年で50%近く上がったのに、消費者物価はほとんど上がっていない。

このように日本の物価だけが上がらない原因はいろいろ考えられるが、著者はデフレ予想が最大の原因だと考える。次の図のように日常的に買う商品のほぼ4割の価格が変わらないので、消費者はデフレ予想をもち、企業も価格を上げない。他の企業が上げないと自社だけ上げるわけにはいかない…というループに入る。

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これは「日本人の国民性」ではない。1970年代に石油価格が上がったときは、日本の物価も海外と同じように上がった。今回の特徴は、エネルギー価格が上がったのに、それが最終財に転嫁されていないことだ。それはなぜだろうか。

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資本主義は「剰余」を生み出して破壊する

呪われた部分 (ちくま学芸文庫)
岸田首相の「新しい資本主義」から斎藤幸平氏の「脱成長」に至るまで、資本主義を敵視する人は多いが、そのほとんどは19世紀的な温情主義で、思想としては取るに足りない。資本主義が剰余を生み出して共同体を破壊するメカニズムを原理的に批判したのはバタイユである。

マルクスは剰余を生み出す労働者を資本家が搾取すると考えたが、バタイユは人間はもととも消費する以上の剰余を生産する能力をもっていたと指摘する。狩猟採集社会では、1日4時間ぐらい働いたら生活できる程度の獲物がとれたが、獲物は貯蔵できないので、人々はそれ以上働かなかった。

人間が定住して農業を営むようになると、穀物は貯蔵できるので剰余が生まれ、不平等が発生した。それを防ぐには、剰余をすべて消費する必要がある。バタイユは、北米の先住民がその財産を使い果たすポトラッチを、剰余を蕩尽するしくみだと考えた。一部の人に富が偏在すると、その分配をめぐって紛争が発生するので、全財産を村中に贈与して秩序を維持するシステムを人類は構築してきたのだ。

しかし産業革命以後の資本主義は、爆発的なスピードで剰余を作り出し、不平等を生み出し、共同体を破壊した。その剰余(利潤)を社会に還元するしくみが市場だが、剰余はしばしば市場で処理できる限度を超えて蓄積されるので、それを定期的に破壊するシステムが必要になった。それが恐慌であり、戦争である。

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政局で決まる日本の安全保障

戦後日本の安全保障-日米同盟、憲法9条からNSCまで (中公新書 2697)
葉梨法相が更迭された。理由はつまらない失言だが、統一教会騒動で国会が止まり、このままでは補正予算が成立しないため、野党との取引でクビにしたのだろう。このように政局が政策を動かすのは今に始まったことではなく、戦後の安全保障も国内の政局の駆け引きで決まった。

といっても終戦直後は政府の相手は野党ではなくGHQで、憲法第9条は第1条(象徴天皇制)を残すための取引だった。連合国の中では天皇を廃位して共和制にすべきだという意見が強かったが、マッカーサーは天皇制がなくなると共産主義革命が起こることを恐れ、吉田茂も同じ意見だった。そこで第9条で日本軍が復活しないことを保証し、天皇を残したのだ。

この取引は、アメリカにとって高くついた。本来はアメリカに代わって日本が極東の安全保障体制の要になるはずだったが、軍備は「警察予備隊」という中途半端なものになり、再軍備するための憲法改正もできなかったので、平和条約と同時に日米安保条約という奇妙な条約を結ばざるをえなかった。

それは日米を守る条約ではなく、日本を守るために米軍が駐留する条約だったので、日本国内で米軍が基地を自由に使うのは当然だった。これは日本にとっても屈辱的な占領状態の延長だったので、自民党は不平等条約を改正しようとしたが、それを阻止したのも政局だった。

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「最適な財政赤字」はゼロではない

日本経済の見えない真実 低成長・低金利の「出口」はあるか
今年度の税収が約68兆円と過去最高になる見通しで、岸田政権は29兆円の補正予算を編成するなど、財政バラマキの季節が戻ってきた。ネット上ではMMTやリフレ派が人気だが、彼らには影響力がないので無害だ。むしろ問題はいまだに「プライマリーバランスを黒字化すべきだ」という政府税調のような財政タカ派である。

門馬一夫氏は元日銀理事だが、財政ハト派である。ゼロ金利では、金融政策に限界があるからだ。それは日銀にできることがなくなったからではない。物価を上げるだけが目的なら、できることはいくらでもある。たとえば日銀が自動車やスマホを無限に買えば、物価は間違いなく上がる。金融政策の限界は、実体経済に中立な政策手段が尽きたことなのだ。

黒田総裁のやっている量的緩和は本質的に財政政策だが、それ自体は問題ではない。問題は彼が「財政ファイナンスではない」といい、日銀は財政に中立だという建て前を崩さないため、YCCのような不毛な政策しかとれないことだ。

高度成長期の資金不足の時代とは違い、慢性的に資金過剰の現在では、民間の需要不足を埋める一定の財政赤字が必要である。最適な財政赤字はゼロではないのだ。本書も「政府債務残高に何らかの意味での最適な規模」が存在するというが、その最適規模はどう決まるのか。

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中国の王朝を維持した「愚民政治」のフラクタル構造

China Transformed: Historical Change and the Limits of European Experience
習近平は中国の伝統的な皇帝に似てきたが、彼をブルボン王朝やロマノフ王朝のような専制君主と考えるのは間違いである。中国の王朝は、むしろ伝統的に弱い国家だった、と本書はいう。

何しろ人口が多すぎるため、官僚も軍隊もそれに比べるとわずかなもので、皇帝の権力も地方には及ばなかった。皇帝の下に中央官僚がいて省があり、その下に各地方の知県(知事)…というように多くの階層があり、それぞれの段階で上の支配者が下の階層を収奪した。それは国王と国民というより、宗主国と植民地の関係に近い。

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この支配構造を、著者(王国斌)はフラクタル構造と呼んでいる。大きなピラミッドの中に同型の小さなピラミッドがあり、その中にさらにピラミッドが…というように自己相似的な構造になっている。これは日本と同型だが、意思決定の方向が逆である。

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