IT

検閲するGoogleはやめてBingを使おう

グーグルが司法省に提訴され、フェイスブックがFTCに提訴されるなど、最近GAFAに風当たりが強まっている。無料で提供されるサービスに独禁法を適用するのはむずかしいが、情報のバイアスという点ではプラットフォーム独占の弊害は大きい。

グーグルはこのごろ検索結果のバイアスが強くなり、システム管理者を悩ませている。たとえば「感染症 アゴラ」で検索すると、図の左のように「サイエンスアゴラ」が3件も出てきて、「こまばアゴラ劇場」、「アゴラ内科クリニック」が2件、ホルモン焼き「アゴラ」が出てくるが、最初のページに言論プラットフォーム「アゴラ」の記事は1本も出てこない。

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これに対してマイクロソフトのBingで検索すると、右のように最初のページの10本中7本はアゴラの記事である。本来のグーグルのアルゴリズムのように重要な情報を上位にランクすると、ここに出ている記事は数万のアクセスを集めたので、こうなるのが自然だろう。

ではなぜグーグルの検索では、ホルモン焼きがアゴラの記事より上位になるのか。これはグーグルに聞いても教えてくれないが、コロナについては感染リスクを誇張しないサイトの順位を意図的に下げていると思われる。最近はこの検閲が極端になり、アゴラの記事は最初のページに表示されなくなった。

グーグルはYMYLとかE-A-Tとか言っているが、要は役所や大学などの公式サイトを上位にもってくる権威主義である。政府がコロナの脅威をあおっているときは、それに迎合するサイトを上位に表示し、それを疑うサイトを排除するのだ。そういう政治的バイアスのない情報を検索したい人には、Bingをおすすめする。検索アルゴリズムはまったく違うので、自然な重要度に応じて結果が出てくる。

続きはアゴラサロンで(初月無料)。

民放連も認めた電波の「区画整理」

高橋洋一氏の「Eテレの電波をオークションにかけろ」という話が、いまだにネット上では話題になっているが、これは素人の与太話だ。次の表を見ればわかるように、Eテレはリモコンでは全国で2チャンネルに割り当てられているが、物理チャンネルは各地でバラバラである。

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たとえば札幌では13チャンネル、赤井川では39チャンネル、赤平では18チャンネル…というように異なる周波数に割り当てられているので、このまま売却しても通信には使えないし、買い手もいない。Eテレの合理化は、電波とは無関係なNHKの経営問題である。

問題は、このようにバラバラになっているのはなぜかということだ。これはアナログ時代には意味があった。札幌の電波が赤井川に届くと干渉(マルチパス)を起こすので、別のチャンネルを使う必要があったからだ。

しかし地デジでは、札幌と赤井川で同じチャンネルを使っても干渉は起こらない。受像機が強い電波だけ受信して、弱い電波をカットするので、北海道の中ではEテレはすべて13チャンネルで放送してもいい。これが2017年に規制改革推進会議で私が提案したSFNによる「区画整理」案である。続きを読む

コンピュータはいかにして猫を発見したか

人工知能をめぐる議論は、近代の認識論の歴史を繰り返しているようにみえる。1980年代までの初期のAIでは、人間の知能は論理だからコンピュータの論理回路で実現できると考えたが挫折した。その本質的な原因がフレーム問題だった。

たとえば「猫に餌を与える」という動作をロボットにやらせるには、猫とは何か、餌をどうやって口に入れるのか…といったフレームを無限に設定しなければならない。これはカントの認識論に似ている。「物自体」は認識できず、まずカテゴリー(フレーム)に分類する必要があるのだ。

1990年代にニューラルネットで人工知能という曖昧な技術は機械学習に進化したが、フレーム問題は解決できなかった。機械学習は学習で画像や音声を処理する技術だが、その答は人間が与える教師あり学習だから、顔認証や指紋認証はできるようになったが、何も教えないで猫というフレームを発見することはできなかった。
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ところが2012年に、グーグル教師なし学習で猫を発見した。無作為に抽出した1000万枚のYouTubeの動画(いろいろな物体が出てくる)をコンピュータに見せ、人間が何も教えないで、コンピュータが上のような猫のイメージを描いたのだ。この計算には、1000台のサーバで1万6000のプロセッサーをつないで3日間かかったという。

このようにコンピュータがフレームをつくって対象を認識するのが深層学習だが、人間の子供なら誰でも瞬時にできる処理にこれほど膨大なコストがかかるということは、「古い脳」の動作原理がノイマン型コンピュータと根本的に違うことを示している。

続きは11月23日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

Chromebookを使ってみた

職場で使っているサブのWindowsパソコンが異様に遅くなってきたので、アマゾンで安いマシンをさがすと、ほとんどがChromebook。日本ではコロナの影響で学校や企業の集団購入が増え、ノートPC市場でのChromebookのシェアが、去年の1%から今年は13%になったらしい。試しに一番安い2万3000円(税込み)のLenovo S330を買ってみた。

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電源を入れると8秒で立ち上がり、重いファイルもサクサク動く。これはHDDがなくなり、すべてeMMCという半導体になったことも大きいが、SSDの(はるかに高スペックの)Windowsマシンより速い。Windowsのように既存のすべてのデバイスに対応する機能を切り捨てたからだろう。

ほとんどの機能をブラウザで実現し、ファイルもクラウドに保存するので、OSはシンプルでセキュリティが高く、ストレージも32GBで十分だ。Windowsアプリは使えないが、Androidアプリが使えるので主要なアプリはほとんど動く。WordやExcelは無料版なので機能には制限があるが、フォーマットが崩れることはない。

問題は日本語と印刷だ。Google日本語入力はインターフェイスが使いにくいが、それ以外のIMEは使えない。キー設定のカスタマイズもほとんどできないので、大量に文書作成する人には物足りないだろう。印刷もChromeOSに対応しているプリンタは少ない。

要するにAndroidタブレットにキーボードがついたようなもので、ソフトウェアキーボードで入力するより楽と割り切れば、サブのマシンとしては買い得だと思う。

続きは11月23日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

スマホ料金はなぜ高いのか

スマホ料金はなぜ高いのか(新潮新書)
菅政権の目玉政策は「携帯電話料金の4割値下げ」だが、これはいささか奇妙な話だ。今でも格安SIM(MVNO)の料金は、データ通信なら普通の携帯キャリア(MNO)の半分以下なので、無理に値下げさせなくても、MVNOに乗り換えればいい。

このMVNOの料金は国際的にみても安く、20社以上あって競争も激しい。不思議なのは、MVNOのシェアが合計12%と低いことだ。これは大手MVNOの親会社がMNOで、競合を恐れて積極的に宣伝しないためと思われる。むしろMNOが4割値下げすると価格差が小さくなり、MVNOの経営が苦しくなるおそれが強い。

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価格コムより

本書はこの問題を中心に通信業界の現状を書いたものだが、最後に私の規制改革推進会議の資料を5ページにわたって引用し、「テレビ局の占有しているプラチナバンドを電波オークションで開放すれば、競争が促進されてスマホ料金は安くなる」と結論している。

これが技術的にできることは総務省も認めたが、関係者が沈黙しているのは、テレビ局がその政治力で電波の浪費を隠しているからだ。キー局は実はネット配信に進出したいのだが、県域免許でローカルな電波利権を守って経営している地方民放がネット配信を許さないのだ。

その電波利権の頂点にいるのが読売新聞の渡辺恒雄主筆だが、彼の知識は20年古い。今のように帯域とコーデック(MPEG-2)がハードウェアで一体の放送では、4Kとか8Kとか新しい技術が出てきても伝送方式を変えられない。電波は帯域免許にして用途は自由にし、IPで伝送すれば、その上のレイヤーのコーデックはソフトウェアで変えられる。日本のテレビ局もNetflixになれるのだ。

この点は日本の地デジ(OFDM)は欧米のデジタル放送よりすぐれた技術で、ほとんどの変更はソフトウェアでできる。技術的には今のバラバラの帯域のままでも端末の周波数を動的に変えれば通信に使えるが、これは干渉のリスクがある(とテレビ局が主張する)ので、区画整理して通信キャリアに免許を割り当てたほうがいい。

今のまま通信料金を4割値下げすると、困るのはMVNOである。総務省はMNOに接続料を下げろと指導しているようだが、国際的にみると日本の接続料は安い。結局は新しい帯域を区画整理してオークションで開放し、設備ベースの競争を促進するしかない。これは技術的には自明で、帯域もあいている。あとは首相の指導力だけだ。

日本ではなぜ電波オークションができないのか

今年のノーベル経済学賞は、私の予想通りポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンが受賞した。オークションについては1996年のヴィックリー以来、賞が出ていないので、遅すぎるぐらいだ。ミルグロムの理論は数学的には新しいものではないが、これを電波オークションとして実用化した功績は彼のものである。

アメリカでは2016年に600MHz帯をオークションにかけ、T-Mobileが落札して5Gのサービスをすでに開始している。このオークションで一番ややこしかったのは、この帯域をテレビ局が占有しており、それを立ち退かせないとオークションができないことだった。FCCではテレビ局を立ち退かせる制度設計を考えていたが、これは複雑で実用化できなかった。

そこで私は2003年に帯域を買い取るオークションを設計する論文を書いた。これはテレビ局のもっている電波を政府が逆オークションで買い上げるもので、FCCのペッパー局長の参加した会議で発表したら彼が認め、その後FCCがこれを「インセンティブ・オークション」として実用化した。

日本でも同じ問題があるが、逆オークションは必要ない。日本の地デジでは周波数がソフトウェアで変更できるので、テレビ局を立ち退かせなくても、SFNという技術で電波が区画整理できるのだ。テレビ局は今まで通り放送ができ、空いた帯域に入ってくるのは通信業者なのでテレビとは競合しない。これは私が規制改革推進会議で発表して総務省も認めたが、闇に葬られてしまった。

続きは11月2日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)。

【更新】イノベーションのジレンマ

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
著者クレイトン・クリステンセンが死去したので更新。

経営学に古典と呼べる本はほとんどないが、本書は1997年に出版された後、むしろ年とともに評価が高まっている稀有なビジネス書だ。ジョージ・ギルダーやアンディ・グローブが絶賛し、『ビジネスウィーク』などが特集を組み、多くの賞を受賞した。
 
本書の特色は、企業の成功ではなく失敗を分析した点にある。特に印象的なのは、著者がくわしい実証研究を行ったハードディスク業界のケースだ。大型コンピュータ用の14インチ・ディスクのトップ・メーカーは、ミニ・コンピュータ用の8インチ・ディスクの開発に遅れをとってすべて姿を消し、8インチの主要メーカーのうちパソコン用の5インチで生き残ったのは一社だけ、そして3.5インチでも…というように、ディスクの世代が変わるごとに主要メーカーがすっかり入れ替わってしまった。続きを読む

中国人は「みにくいアヒルの子」か

東大情報学環・学際情報学府の「特定短時間勤務有期雇用教職員」である大澤昇平氏のツイートが論議を呼んでいる。


これについて東大は遺憾の意を表明し、彼の寄付講座のスポンサーであるマネックスグループは寄付を停止すると発表した。ネット上の反応も圧倒的に「中国人の差別だ」という批判である。これは予想された展開だが、大澤氏にとっては予想外だったらしく、きょうになって反論をツイートしている。

続きはアゴラで。

5Gの電波はプラチナバンドに空いている



第5世代移動通信システム(5G)の電波割り当てについての比較審査(美人投票)の結果が出た。きょう政策カフェでその話をしたが、その結果がちょっとおもしろい。NTTドコモとKDDIが1位と2位で3.7/4.5GHz帯では2枠取ったが、ソフトバンクは最下位で1枠しか取れなかったのだ。その点数は4.7点と、楽天より少ない。

続きはアゴラで。

GAFAをいじめてもプラットフォーム独占は止まらない

世界的にGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)規制の動きが強まっている。EU委員会は3月20日、グーグルに14億9000万ユーロの制裁金を課した。アメリカでは2020年の大統領選挙に名乗りを上げた民主党のウォーレン上院議員が、GAFA分割を公約した。

日本でも公正取引委員会がGAFAの調査に不公正慣行について調査を始め、自民党は4月にGAFA規制の方針を打ち出す予定だ。こういうプラットフォーム独占が競争を阻害し、長期停滞の原因になったと考える経済学者も多い。

続きはアゴラで。


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