今週の金曜には日銀の政策金利が0.75%に引き上げられる見通しだが、本書も指摘するように今や政策金利には大した影響力がない。日本の企業は貯蓄超過で、金を貸す側だからだ。これを知らなかった黒田日銀は、大量にゼロ金利のマネーを供給したが、それは国内投資には回らなかった。
企業が貯蓄主体になったきっかけは1998年から始まった金融危機で銀行が不良債権を回収したことだが、不良債権処理が終わってからも企業は「内部留保」を厚くして危機にそなえるようになった。次の図のように企業はこの25年間、一貫して貯蓄超過である。

非金融法人企業の資金循環フロー(資金循環統計)
金を借りて投資するはずの企業が金を貸している(最大の借り手は政府)という状況は世界に類のないもので、日銀にも理解できなかった。黒田総裁はこれを無視してマネタリーベースを500兆円以上に拡大したが、上の図のように国内投資は増えなかった。増えたのは海外直接投資である。
こういう指摘は今年の良書ベスト10であげた経済書と同じだが、海外収益が最終的に配当やキャピタルゲインとして国内に還元されれば悪くない。かつて大英帝国は、海外の植民地に投資した企業の配当で史上最大の栄華を築いた。
日本の問題は、海外収益が国内に還元されないことだ。上場企業の株主の6割が外国人で、株式売買高の7割が外国人株主なので、日本はグローバル経済の植民地になっているようなものだ、と本書はいう。この最大の原因は、家計が極端にリスク回避的で、金融資産の半分以上を実質マイナス金利の預貯金にしていることだ。
本書は賃上げの不足が問題だというが、これは説明になっていない。普通の経済理論では、企業収益が上がれば限界生産力に従って賃金にも分配されるはずで、1990年代末のような非常事態は別として、その後もずっと実質賃金が同じというのは異常で、世界にも類を見ない。
それが「合成の誤謬」をまねいたという指摘は正しいが、賃上げゼロの原因は何か。本書はこれを2002年の春闘でトヨタの奥田社長が賃上げゼロにしたというアドホックな説明ですましているが、その後も賃上げゼロの状態は多くの企業で続いた。
これを「コストカットの新自由主義」として否定したのが岸田政権で、高市政権もそれを受け継いでいるが、これも説明になっていない。日本より激しくコストカットがおこなわれたアメリカで、実質賃金は大きく上がったのだ。

実質賃金上昇率(OECD)
雇用の流動性の高い国ほど賃金が上がる相関関係は、多くのデータで示されている。OECDの統計では日本は法令上の解雇規制はきびしくないが、賃金上昇率は最低である。これは裁判所の判例で正社員の解雇を実質的に禁止しているためだ。

雇用の流動性と賃金上昇率(OECD)
雇用の流動性が低いと新陳代謝が少なくなり、成長企業に転職する人が少なくなる。また日本の場合は解雇のバッファとして非正規雇用が増え、それが4割以上になったので、非正規と「同一賃金同一労働」になると正社員が賃上げを要求できない。
このように硬直的な労働市場が長期低迷の大きな原因である。それだけが原因ではなく、またそれを改革するには長い時間がかかるが、それなしで財政バラマキをやっても、低迷は脱却できない。
企業が貯蓄主体になったきっかけは1998年から始まった金融危機で銀行が不良債権を回収したことだが、不良債権処理が終わってからも企業は「内部留保」を厚くして危機にそなえるようになった。次の図のように企業はこの25年間、一貫して貯蓄超過である。

非金融法人企業の資金循環フロー(資金循環統計)
金を借りて投資するはずの企業が金を貸している(最大の借り手は政府)という状況は世界に類のないもので、日銀にも理解できなかった。黒田総裁はこれを無視してマネタリーベースを500兆円以上に拡大したが、上の図のように国内投資は増えなかった。増えたのは海外直接投資である。
こういう指摘は今年の良書ベスト10であげた経済書と同じだが、海外収益が最終的に配当やキャピタルゲインとして国内に還元されれば悪くない。かつて大英帝国は、海外の植民地に投資した企業の配当で史上最大の栄華を築いた。
日本の問題は、海外収益が国内に還元されないことだ。上場企業の株主の6割が外国人で、株式売買高の7割が外国人株主なので、日本はグローバル経済の植民地になっているようなものだ、と本書はいう。この最大の原因は、家計が極端にリスク回避的で、金融資産の半分以上を実質マイナス金利の預貯金にしていることだ。
賃上げゼロの原因は労働市場
「内部留保」という言葉には誤解が多いが、著者はこの4割を占める企業貯蓄が日本経済の長期低迷の原因だという。これも多くの経済学者のコンセンサスだが、その原因については諸説ある。きっかけが1998年の金融危機だったことは間違いないが、それがその後25年も続いたのはなぜか。本書は賃上げの不足が問題だというが、これは説明になっていない。普通の経済理論では、企業収益が上がれば限界生産力に従って賃金にも分配されるはずで、1990年代末のような非常事態は別として、その後もずっと実質賃金が同じというのは異常で、世界にも類を見ない。
それが「合成の誤謬」をまねいたという指摘は正しいが、賃上げゼロの原因は何か。本書はこれを2002年の春闘でトヨタの奥田社長が賃上げゼロにしたというアドホックな説明ですましているが、その後も賃上げゼロの状態は多くの企業で続いた。
これを「コストカットの新自由主義」として否定したのが岸田政権で、高市政権もそれを受け継いでいるが、これも説明になっていない。日本より激しくコストカットがおこなわれたアメリカで、実質賃金は大きく上がったのだ。

実質賃金上昇率(OECD)
雇用の流動性の高い国ほど賃金が上がる相関関係は、多くのデータで示されている。OECDの統計では日本は法令上の解雇規制はきびしくないが、賃金上昇率は最低である。これは裁判所の判例で正社員の解雇を実質的に禁止しているためだ。

雇用の流動性と賃金上昇率(OECD)
雇用の流動性が低いと新陳代謝が少なくなり、成長企業に転職する人が少なくなる。また日本の場合は解雇のバッファとして非正規雇用が増え、それが4割以上になったので、非正規と「同一賃金同一労働」になると正社員が賃上げを要求できない。
このように硬直的な労働市場が長期低迷の大きな原因である。それだけが原因ではなく、またそれを改革するには長い時間がかかるが、それなしで財政バラマキをやっても、低迷は脱却できない。



