人生100年時代のうち、サラリーマンは仕事をやめてからが長い。60歳で定年になってから、平均寿命まででも20年以上ある。この長すぎる老後をどう過ごすかは大事な問題だが、日本は暇つぶしにかけては先進国である。何しろ江戸時代には250年以上、内戦も対外戦争もなかったのに、日本中の300近い「国」がそれぞれ軍人(武士)を抱えていた。彼らは人口の1割近くいたが、戦争がないのでほとんどの武士は失業状態だった。この長すぎる平和で退屈をまぎらわすには、きわめて高度な暇つぶしの技術が必要だった。江戸時代の文化は、そのおかげで洗練されたのだ。
もう一つの特徴は、資本の浪費である。現物経済で資本蓄積ができなかったため、商人は富を消費し、江戸文化のスポンサーになった。商人が資本を生産的な用途に投資していれば経済成長しただろうが、その顧客だった武士が貧しいため、商売は拡大しなかった。バタイユ的にいうと、剰余を蕩尽することで平和を守ったのだ。
長い平和と停滞する経済の中で、歌舞伎や文楽のように「かたち」にこだわる洗練された文化が生まれた。これをアーネスト・サトウは「停滞を安定と取り違えている」と評したが、丸山眞男もいうように、それは(少なくとも初期には)意図的に取り違えたのだ。江戸時代は停滞の時代をいかに生きるかのモデルともいえよう。
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