宗教論集〈第1〉宗教とは何か (1961年)
7月からのアゴラセミナー「人生100年時代」では、年金・医療の問題とともに「死に方」の問題も考えたい。長すぎる老後は「ゆるやかに死ぬ」時期であり、そこに何を求めるかは切実な問題である。仏教は今では葬式仏教とバカにされているが、最初から「死に方の思想」だった。

ブッダが生きたのはアーリア人の地域国家が、西域から進出してきたアケメネス朝ペルシャとの戦争の中で滅びた時代だった。多くの人が戦乱や疫病で死に、平均寿命が30歳に満たない古代インドで、死と隣り合わせで生きる人々を救済する思想が、のちに仏教と呼ばれるようになった。

その教えの中心は<空>である。これはバラモン教の因果応報を否定し、万物は相関して絶対的な主体は存在しないという思想だ。この世の苦しみが悪の報いだとすると救いがないが、世界が無意味な<空>だとすれば悩む必要もない。修行を重ねて悟りを開けば涅槃(ニルヴァーナ)の境地に至り、死によって<空>に帰る。

このような仏教のニヒリズムは、無宗教といわれる日本人にも通じる。むしろ世界を唯一神が支配するというキリスト教が特殊なのだ。西谷啓治はハイデガーに師事し、彼のプラトン批判を継承して仏教にヨーロッパ中心主義を否定する思想を見出し、ヴァレラなどポストモダンの思想に影響を与えた。

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