とうとう関税戦争が始まった。アメリカでは300人の経済学者が反対の署名をしたが、トランプは意に介さない。関税は彼が選挙運動で売り物にしていたからだ。そのブレーンとされるOren Cassは、これを擁護している。



彼はアメリカの中国に対する貿易赤字が国内の雇用を奪っていると信じているようだ。これは1980年代にレーガン政権が日本を攻撃しときと同じ錯覚で、経済的にはナンセンスである。貿易赤字は資本収支の黒字すなわち対米投資が大きいことを示す数字で、善でも悪でもない。

彼の設立したAmerican Compassというシンクタンクの報告書は、関税についてこう述べている:
1. 関税は「保護主義」ではなく「戦略」である
  • 関税を単なる保護主義と否定するのは誤り。国家の産業基盤や雇用を守るための正当な政策手段である。
  • 中国のような国家主導経済に対抗するためには戦略的な貿易管理が必要。
  • グローバル競争は多くのアメリカ産業を脆弱にした。関税は、国内企業が公平に競争できるようにするための手段だ。
2. 製造業の再生のための関税活用
  • 長年にわたり、安価な輸入品(特に中国や東南アジア)によってアメリカの製造業は空洞化。
  • 関税をかけることで、国内産業への投資を促進し、雇用の回復を図る。
  • 特に鉄鋼、半導体、医療機器など戦略的産業には積極的な関税政策を。
3. 「自由貿易信仰」からの脱却
  • 1990年代以降のアメリカ政策は、自由貿易を絶対視しすぎていた。
  • NAFTAや中国のWTO加盟は、結果としてアメリカの製造業喪失と地域社会の崩壊を招いた。
  • 新しい貿易政策は、国民経済の強靭性と自立を重視すべき。
4. 政策提言
  • 戦略的セクターへの恒常的な関税:特定の国内産業(例:鉄鋼・半導体)を守るための長期的な関税
  • 中国製品への強化関税:不公正な補助金や国家介入に対抗する
  • 供給網の再構築支援:国内生産に切り替える企業に対し、関税と補助金を組み合わせて支援
つまりアメリカの製造業の空洞化が労働者(プアホワイト)の没落を招いたという批判である。これは事実だが、それを関税で止めることはできない。問題は悪化するだけだ。

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