コスモスとアンチコスモス: 東洋哲学のために (岩波文庫 青 185-5)
井筒俊彦は一般にはイスラム学者として知られているが、本人はこのレッテルをきらい、「言語哲学者」と自称していた。事実イランから日本に帰国した1980年代以降の研究の重点は、大乗仏教に移っていった。

本書の第一論文は、大乗仏教の完成された形態である華厳経スーフィズム(イスラム神秘主義)とつなぐ大胆な試みである。それが成功しているのかどうか私にはわからないが、井筒以外には不可能な離れ業であることは間違いない。

ここで井筒は華厳経の事事無礙(あらゆる事象が互いに関連・融合し、障害なく自在に関わり合い調和する世界)がスーフィズムの哲学と本質的に同じだという。もちろん一神教のイスラムは、教義としては仏教とまったく違うが、その根底に同じ「東洋哲学」があるという。

そして両者に通底する哲学には、現代的な意義があるという。それはニーチェ以降の西洋哲学が逢着した行き詰まりを――デリダの言葉でいうと――脱構築(井筒は「存在解体」と訳す)する可能性をもっているからだ。

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