初期仏教 ブッダの思想をたどる (岩波新書)
『平和の遺伝子』を書いてわかったのは、日本人は特殊ではないということだ。進化心理学の最近の知見によれば、小集団の利益を最大化する日本人の偏狭な利他主義は普遍的で、利己主義や法治主義で行動する未開社会はない。

そういうヨーロッパ的な価値観が普遍的にみえるのは、単にキリスト教国が世界を植民地支配し、資本主義が経済的に成功したからだ。そこでは利己的な欲望を肯定する一方、社会の秩序を維持する<制度>が必要だった。

枢軸時代の世界宗教はそういう制度だったが、仏教だけは例外だった。その母体となったバラモン教は身分制度だったが、ブッダが創始したのは個人を<救済>する宗教だった。それは当時の時代背景と関係がある。

紀元前500年ごろガンジス川流域にはアーリア人の小規模な地域国家がたくさんあったが、西域から進出してきたアケメネス朝ペルシャとの戦争の中で滅びた。この戦乱の時期に多くの宗教が花開いた。中でも仏教はすべての制度を<空>として否定する一種のアナーキズムだった。

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