宿命の子 上 安倍晋三政権クロニクル (文春e-book)
本書は安倍晋三元首相の伝記である。政権の当事者に取材して丁寧に書かれているが、致命的な欠陥がある。第6章「慰安婦」の中に、朝日新聞の大誤報問題がまったく出てこないのだ。出てくるのは宮沢政権のときの河野談話をめぐる周知のエピソードだけで、木村伊量社長の辞任に至った慰安婦スキャンダルが何も書いてないのだ。

これは吉田清治という詐欺師の「日本軍が慰安婦を強制連行した」という作り話を朝日新聞が16回にもわたって事実であるかのように報じて日韓問題に発展し、2014年8月に特集で取り消した事件である。当時、船橋氏はすでに朝日新聞を退社していたが、木村氏とはGLOBE創刊のときの同僚であり、辞任の事情も聞いていただろう。

ところが検索しても、木村氏の名前さえ出てこない。1ヶ所だけ、第6章の註6に「朝日新聞が吉田清治をめぐる虚報を詫びた」と書いてあるだけで、普通の読者は気づかないだろう。この理由は二つ考えられる:一つは船橋氏が何も知らないこと、もう一つは彼がいまだに語りえない朝日新聞の深刻なスキャンダルを知っていることである。

船橋氏ほどの大ジャーナリストが何も知らないことはありえないので、もう一つの可能性が考えられる。ここから先は私の想像だが、彼は慰安婦問題の真犯人を知っているのではないか。それは当時の大阪社会部デスクで、のちに大阪本社編集局長になった鈴木規雄(故人)である。

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