反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―(新潮選書)
大統領選挙は、トランプの圧勝に終わった。これは2016年のようなまぐれ当たりではなく、上下両院も共和党が制する「トリプル・レッド」になりそうなので、アメリカの民意といえよう。

トランプの支持層が低学歴だというのは定型化された事実だが、それはプア・ホワイトだけではなく、マイノリティにも支持が広がっている。トランプはバカで助平で自分勝手だが、それは大衆と同じなのだ。これは意外に根深いアメリカの伝統で、その本質は本書のいう反知性主義である。

これはホーフスタッターの言葉だが、マッカーシズムの吹き荒れた1950年代のアメリカについての特殊な概念である。彼が批判したのは知性そのものではなく、それが政治権力と結びつくことだったので、「反エリート主義」とか「反権威主義」と呼んだほうがいい。

それは必ずしも蔑称ではなく、アメリカの大衆が共有している思考様式である。王政や封建制の歴史のないアメリカでは、キリスト教が権威となったため、ハーバード大学などを出た聖職者や知識人の知的・政治的権威が大きい。彼らは大衆よりはるかに所得の高い特権階級なのにマイノリティを擁護し、格差の拡大をなげく。

そういうリベラルの偽善に対する反感が反知性主義だが、これはキリスト教圏には普遍的にみられる。ヨーロッパで起こっている右派政党の台頭も、リベラルな移民受け入れや環境保護が貧困をもたらしていることへの反感である。

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