教科書的な「産業革命」の説明は、最近の数量経済史のデータでほとんど否定されている。イギリス資本主義のエンジンになったのは18世紀の産業革命ではなく、17世紀の植民地経営の成功だった。その主役は勤勉なプロテスタントの資本家ではなく、海外でもうけたジェントルマンだった。

マルクス以来、当時の労働者は「生存最低水準」で労働力を再生産する賃金しかもらえなかったことになっているが、18世紀のロンドンの賃金は生活費の4倍以上で、しかも急速に上がった。これが産業革命と呼ばれる多くの発明がイギリスで始まった原因だった。

農村から都市に出てきた労働者は、消費者として成長を牽引した。彼らは飢えをしのぐ以上の商品――衣類や家具やガラスや金属製品などの贅沢品――を買うことができるようになり、これが「有効需要」になったのだ。特に紅茶と砂糖はイギリスの労働者に愛好され、朝食に砂糖を入れた紅茶を飲むことが習慣になった。

それまでの労働者は日曜には飲んだくれて月曜には二日酔いで休む「聖月曜日」という習慣があったが、紅茶のカフェインは目をさまし、砂糖は労働のエネルギーを早く摂取する効果があったので、イギリスの労働規律は改善し、労働生産性が向上した。そして砂糖は、世界商品としてイギリス資本主義を支えた。資本主義が消費文化を生み出し、消費文化が資本主義を生み出したのだ。

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