近代の超克 (冨山房百科文庫 23)
来年で戦後80年になるが、日本人はいまだに<戦後>を卒業できない。左翼はいまだに憲法9条にこだわり、右翼は皇国史観にこだわる。それは<戦後>を清算するほど大きなインパクトのある出来事がなかったためだろうが、知的にもそれを超える思想が生まれなかった。

左翼については『丸山眞男と戦後日本の国体』で整理したが、右翼についてはよくわからない。それは本書のような戦前の思想が、戦争とともに清算されたからだろう。

この座談会は日米戦争の始まった1942年7月に『文学界』がおこなったもので、メンバーは西谷啓治、三木清、下村寅太郎、小林秀雄、亀井勝一郎、林房雄、三好達治、中村光夫、河上徹太郎などのスターだった。

近代的個人がフィクションであり、啓蒙的自由主義はヨーロッパのローカルな思想だという認識は、この座談会に集まった面々にとっては共通了解だった。当時は、アジアを代表する「新興国」としての日本が西欧近代の価値観に挑戦する「大東亜戦争」を戦っている最中であり、その世界史的意義を確認することが彼らの課題だった。

こうした議論は、西洋思想の欠陥を指摘する点では鋭い洞察をみせたが、それを「超克」する原理として設定した「東亜共同体」の実態は、日本がアジア諸国を指導しようとする夜郎自大だった。敗戦とともに、この座談会は記憶から抹消されたが、そこには日本独自の思想の萌芽があった。

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