日本の保守の不幸は、守るべき伝統がはっきりしないことだ。高市早苗氏や百田尚樹氏などの主張する皇国史観は明治時代に偽造された伝統であり、万世一系も男系の皇統も明治政府の儒教的プロパガンダである。
では本来の日本の伝統とは何か。和辻哲郎はその原型を古事記の「神」に求めた。神といっても一神教のように超越的な存在ではなくローカルな共同体の信仰で、多くの共同体を束ねるシャーマンが天皇の原型だった。
こういう理解は本居宣長から受け継いだものだが、和辻はデュルケームなどの人類学の成果を踏まえ、日本の素朴な神こそ世界の未開社会に普遍的で、西洋の個人主義がキリスト教から生まれた特殊な倫理だという。しかしそういうローカルな土着信仰で国家を維持することはできない。
1000年以上にわたって権力のない天皇を支えたものは何だったのか。それは和辻の言葉でいうと、間柄を大事にする日本文化である。漢字の「人間」という言葉の本来の意味は個人ではなく、親族や地域などの「世間」を意味する。そういう人間の長期的関係を大事にするのが日本文化の特長である。
そこまではよかったのだが、戦時中に和辻はこの神をヘーゲルの絶対精神のような「日本精神」に昇格させ、それが白人の世界支配に対抗する「アジアの民族精神」になると論じた。このため戦後、軍部に協力したとして公職追放される一歩手前になった。
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こういう理解は本居宣長から受け継いだものだが、和辻はデュルケームなどの人類学の成果を踏まえ、日本の素朴な神こそ世界の未開社会に普遍的で、西洋の個人主義がキリスト教から生まれた特殊な倫理だという。しかしそういうローカルな土着信仰で国家を維持することはできない。
1000年以上にわたって権力のない天皇を支えたものは何だったのか。それは和辻の言葉でいうと、間柄を大事にする日本文化である。漢字の「人間」という言葉の本来の意味は個人ではなく、親族や地域などの「世間」を意味する。そういう人間の長期的関係を大事にするのが日本文化の特長である。
そこまではよかったのだが、戦時中に和辻はこの神をヘーゲルの絶対精神のような「日本精神」に昇格させ、それが白人の世界支配に対抗する「アジアの民族精神」になると論じた。このため戦後、軍部に協力したとして公職追放される一歩手前になった。
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