ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~ (光文社未来ライブラリー)
トランプ前大統領は、副大統領候補にJ.D.ヴァンス上院議員を選んだ。39歳で、まだ2年目の無名の新人である。その一つの理由は彼が激戦区オハイオ州の出身だからだが、最大の理由は彼が「トランプのクローン」と呼ばれるほど忠実な子分だからだろう。

しかしヴァンスが2016年に書いたこの回想録には、そんな面影はない。中西部のプアホワイトの家庭に生まれ、父親が何人も替わり、母親が麻薬中毒という複雑な家庭で育った彼の生活を通じて、トランプ大統領を生んだ中西部の田舎者(ヒルビリー)の実像が描かれている。

アメリカ経済は1990年代以降、ITとグローバリゼーションで復活したが、その中で中西部の白人は取り残された。製造業の工場が海外に移転して失業者が増え、麻薬中毒やアルコール中毒が増え、犯罪が横行した。

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アメリカの人の死亡率(Deaton)

こうしたプアホワイトは、彼らの職を奪ったのは黒人を優遇するリベラルだと考え、オバマ政権を憎んだ。人種間の対立が激化し、移民を排斥するトランプが彼らの本音を代弁する政治家として、伝統的な共和党とはまったく違う階層から予想外の支持を得たのだ。

ヴァンスは2016年にトランプが立候補したとき、彼を「ファシスト」と呼んだが、上院議員に立候補するとき転向して、トランプのクローンになった。機会主義者とバカにされているが、本書にはトランプを生んだアメリカ社会の暗部が描かれている。

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