この話はビジネスマンにはすぐわかるのだが、企業会計を知らない人にはむずかしいようだ。ポイントは海外法人の上げた利益は配当として本社に送金する必要はなく、現地で再投資しても連結経常利益に計上できるということである。

かつては現地法人の配当を本社に送金していたが、最近は図のように半分以上が現地で再投資される。この収益が第1次所得収支に計上されるが、円安(外貨高)になれば、それを円に換算した利益が上がるので、法人税率の高い日本に帰って来るより税率の低い国で納税したほうがいい。

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神田懇談会の資料より

このため企業の収益は海外を含む連結経常利益と国内の単体経常利益に分類できる。国内のIS-LM曲線が図のようになっているとき、通貨供給をLM'のように増やすと金利がiまで下がり、資金が流入して円安になる。これで輸出が増えてIS曲線が右にシフトする(所得が増える)というのが、黒田総裁の愛用したマンデル=フレミングモデルである。

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マンデル=フレミングモデル

ところが名目金利はゼロ以下には下げられないので、LM'曲線は図のようにゼロのところで屈折し、IS曲線はゼロとの交点から動かない。黒田総裁もそれはわかっていたが、めちゃくちゃにマネタリーベースを増やせば「インフレ期待」が起こり、実質金利(名目金利-期待インフレ率)がiまで下がって緩和効果が出ると思っていた。

ところがインフレ期待は起こらなかった。彼がいくら大量にマネーを供給しても総需要は増えず、IS曲線も動かなかった。そこには錯覚があった。実はIS曲線は動いていたのだ。

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