同調圧力:デモクラシーの社会心理学
本書は私の『「空気」の構造』の編集者から贈ってもらったのだが、帯を見て笑ってしまった。推薦の言葉を書いている長谷部恭男氏こそ、同調圧力の張本人だったからである。あのわけのわからない安保法制反対運動は、彼のひとことから始まったのだ。

安保法制そのものは2014年に閣議決定され、それほど大きな波乱はなかった。私は「マスコミも野党もさすがに今どき安保反対とはいえないのだろう」と思っていたが、翌年6月の憲法審査会で長谷部参考人が「安保法制は違憲だ」と発言したことで情勢は一変した。

自民党の船田元氏は長谷部氏が特定秘密保護法に賛成したので、安保法制にも賛成してくれるだろうと見込んで参考人を依頼したのだが、これが致命的な失敗だった。長谷部氏は以前から集団的自衛権の行使に否定的な意見を発表していたので持論を述べただけだが、結果的には与野党の参考人が全員、安保法制に反対の意見を表明した。

これで翌日の朝日新聞は1面トップで安保法制反対を打ち出し、大騒ぎが始まった。長谷部氏も「立憲デモクラシーの会」なるグループの代表にまつり上げられ、Fラン大学の学生はシールズなるグループをつくってデモを始めた。

これは60年安保と同じく自国の自衛権を放棄しろというナンセンスな騒動で、今となっては笑い話だが、問題は長谷部氏のたった一つの発言が、このように大きなバタフライ効果をもたらしたのはなぜかということだ。

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