クロポトキンは、日本ではロシアのあやしげなアナーキストぐらいにしか思われていないだろう。本書の訳者だった大杉栄は、憲兵に殺害された。訳本も大杉訳しかなかったが、このほど新訳が出た。
本書は政治的なアナーキズムを語るものではなく、進化論の批判である。ダーウィンは進化を個体レベルの「生存競争」と考えたが、これでは社会性昆虫などの協力を説明できない。動物には個体保存と並んで相互扶助の本能があるというのがクロポトキンの仮説である。これは現在の生物学の集団淘汰の理論と同じだ。
おもしろいのは人間社会の進化についての考察で、デヴィッド・グレーバーが序文で高く評価している。中世までの社会の原理は相互扶助で、ヨーロッパの都市は民会や法廷や行政機構をもつアソシエーションだった。村落共同体のような地縁集団とギルドのような職能集団の自治で中世の社会は成り立っていた。
それを破壊したのがフランス革命だった。ヨーロッパ各地で「近代国家」によって共有地が強制収用され、都市が破壊された。その後の戦争と革命で中世のアソシエーションは消滅したようにみえるが、それは20世紀にも残っている。
それはクロポトキンもいうように株式会社よりはるかに古い組織形態であり、互いに助け合う人間の感情に適している。しかし株式会社が株主利益の最大化を目的とするのとは異なり、アソシエーションはメンバー相互の利益を最大化するので、資本蓄積して成長するには適していない。競争原理がきかないので、独占や非効率に陥りやすい。
日本の企業はサラリーマンの経営するアソシエーションである。かつては銀行という外部債権者がモニターしていたが、ゼロ金利になってそれがきかなくなったため、国内の中小企業は労働者管理企業になり、生産性が低下している。それに対して海外展開している大企業は資本の論理で効率的に運営できるので、海外と国内の格差が拡大している。
そして何といっても日本で最大のアソシエーションは、毎年140兆円の資金を動かす社会保険組合だろう。ここには競争原理がないので、厚労省は「相互扶助」と称して非効率な運営を続けている。これを変えるには責任の所在が曖昧な組合組織を解体し、保険と税に分解する必要がある。
アナーキズムは無政府主義というよりアソシエーションの連合体であり、クロポトキンが論じているようにそれは空想の世界ではないが、近代国家との制度間競争に敗れた。それは戦争に適していないからだ。逆にいうと遠い将来、世界平和が実現すれば、先進国は都市国家のアソシエーションに回帰するかもしれない。
本書は政治的なアナーキズムを語るものではなく、進化論の批判である。ダーウィンは進化を個体レベルの「生存競争」と考えたが、これでは社会性昆虫などの協力を説明できない。動物には個体保存と並んで相互扶助の本能があるというのがクロポトキンの仮説である。これは現在の生物学の集団淘汰の理論と同じだ。
おもしろいのは人間社会の進化についての考察で、デヴィッド・グレーバーが序文で高く評価している。中世までの社会の原理は相互扶助で、ヨーロッパの都市は民会や法廷や行政機構をもつアソシエーションだった。村落共同体のような地縁集団とギルドのような職能集団の自治で中世の社会は成り立っていた。
それを破壊したのがフランス革命だった。ヨーロッパ各地で「近代国家」によって共有地が強制収用され、都市が破壊された。その後の戦争と革命で中世のアソシエーションは消滅したようにみえるが、それは20世紀にも残っている。
アソシエーションは資本主義の中にある
現代にもアソシエーションは残っている。最大の組織は労働組合だが、それ以外にも生協や農協など協同組合は多く、日本では生命保険や信用組合など、相互扶助の原理で運営されている企業もある。それはクロポトキンもいうように株式会社よりはるかに古い組織形態であり、互いに助け合う人間の感情に適している。しかし株式会社が株主利益の最大化を目的とするのとは異なり、アソシエーションはメンバー相互の利益を最大化するので、資本蓄積して成長するには適していない。競争原理がきかないので、独占や非効率に陥りやすい。
日本の企業はサラリーマンの経営するアソシエーションである。かつては銀行という外部債権者がモニターしていたが、ゼロ金利になってそれがきかなくなったため、国内の中小企業は労働者管理企業になり、生産性が低下している。それに対して海外展開している大企業は資本の論理で効率的に運営できるので、海外と国内の格差が拡大している。
そして何といっても日本で最大のアソシエーションは、毎年140兆円の資金を動かす社会保険組合だろう。ここには競争原理がないので、厚労省は「相互扶助」と称して非効率な運営を続けている。これを変えるには責任の所在が曖昧な組合組織を解体し、保険と税に分解する必要がある。
アナーキズムは無政府主義というよりアソシエーションの連合体であり、クロポトキンが論じているようにそれは空想の世界ではないが、近代国家との制度間競争に敗れた。それは戦争に適していないからだ。逆にいうと遠い将来、世界平和が実現すれば、先進国は都市国家のアソシエーションに回帰するかもしれない。