再エネタスクフォースをめぐる問題の根底には、河野太郎氏の急進的な再エネ推進がある。彼はもとは反原発派ではなく、その出発点は核燃料サイクルをめぐる電力会社の自民党支配に疑問をもったことだった。2011年5月のBLOGOSチャンネルで私と対談した貴重な記録が残っていた。



池田:今は太陽光発電のコストは、1kWhあたり40円。それが、石炭火力だと6円です。本当に再生可能エネルギーが、石炭に匹敵するようなものになるのか。ならない場合に、補助金をいつまで続けるのか。今の仕組みだと電気料金に上乗せされてしまいますよね、それは結局は、日本の産業の国際競争力に跳ね返ってしまうのでは。

河野:日本はまだまだ重厚長大型の産業が残っている。欧米はそこからソフトウェアに変わったり、もう少し知価革命が進んできている。重厚長大でやってきた部分は、中国やインドの追い上げを考えると、どこかの段階でそれを受け渡して、新しいところに出て行かなきゃいけない。

そうすると、産業の中でエネルギーコストの部分も段々小さくなる方向に行くだろうと思います。日本経済が発展するためには、小さくなる方向に動いていかなきゃいけない。 再生可能エネルギーを可能な限り伸ばしていくと、それが伸びていけば新しい日本の産業にもなって輸出できるわけです。

河野氏は日本が脱工業化してハイテク産業に特化すればエネルギー消費が減り、電気代が高くなってもいいと思っていたわけだ。彼は日本には珍しい「大きなビジョン」を語る政治家であり、この考えはその後も変わっていないだろう。だがその後、世界の現実は大きく変わった。ハイテク産業こそ最大の電力集約産業になったのだ。

ハイテク産業の競争力は電気料金で決まる

電力中研の予測によると、データセンターや半導体工場の増加で、日本の電力消費は2050年までに2021年の37%増える可能性があるという。しかもデータセンターは24時間稼働であり、半導体は電圧が0.1秒下がっただけで製品がパーになるので高品質の電力を必要とする。再エネのようなお天気まかせの間欠的エネルギーではとても対応できない。

図表(電力消費、2050年に4割増 生成AI普及で想定超す爆食)_DSXZQO4695307010042024000000

現在の東京の電気代(家庭用)は約30円/kWhで、今後も上がる見通しだ。これは電力需要が増えているだけでなく、再エネの増加が大きな要因だ。再エネ賦課金だけで2030年までに累計44兆円の超過負担が生じる。

さらに深刻なのは、再エネを無計画に増やしたために石炭火力が廃止され、夏冬のピークだけでなく、一年中、電力不足のリスクが生じることだ。これをバックアップするための容量市場で2割ぐらい電気代が上がるが、再エネTFはこれに反対している。

他方、北京の電気代は約10円/kWhで、これを2030年には3円まで下げるのが中国政府の目標だ。このままでは日中の電気代の差は10倍以上に拡大する。そのとき日本に生産拠点を置く製造業もハイテク産業もほとんどなくなるだろう。

河野氏のビジョンは、ハイテク産業といえば労働集約的なソフトウェア産業だった一昔前のものだが、今やソフトウェアは生成AIで書ける時代だ。グーグルなどは全世界にデータセンターを配置し、その最大のコストは電気料金である。データセンターの隣に原発を建設する計画まである。ハイテク産業の競争力を左右するのは電気料金なのだ。