反哲学史 (講談社学術文庫)
哲学的にはまったく異質なポパーとハイデガーには、一つだけ共通点がある――プラトン批判である。ポパーはプラトンの思想を本質主義と呼び、ハイデガーは形而上学と呼んで、それを解体する「反哲学」を構想した。

プラトンの哲学はイデア論としてよく知られている。これは日本では「理念」とか「理想」と混同されているが、原義は「形」という意味で、英訳ではformである。アリストテレスはこれを形相(エイドス)と呼んだが、語源は同じである。プラトンはそれを次のようなたとえで語る。

いま二つの家具のそれぞれを作る職人は、そのイデアに目を向けて、それを見つめながら一方は寝椅子をつくり、他方は机をつくるのであって、それらの製品をわれわれが使うのである。(『国家』第10巻)

ここではイデアは超越的な理念ではなく、家具をつくるために職人が思い描く形である。このように自然を<つくる>ものと考える思想は、自然と人間を一体とみなす古代ギリシャでも異質だった。それが西洋哲学の原型となり、現代に至るまで支配的な思想になったのはなぜだろうか。

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