財政・金融政策の転換点 日本経済の再生プラン (中公新書)
2010年代は、マクロ経済政策の常識が大きく変わった時代だった。経済学者はそれに気づき始めたが、政治家やマスコミは古い常識にこだわっている。2000年代までの経済学のコンセンサスは、
  1. 財政赤字は望ましくない
  2. 景気対策は金融政策で行う
  3. 中央銀行には独立性が必要だ
だったが、ブランシャールも指摘するように、1と2は今では経済学者の多数意見ではない。その最大の理由は、2008年以降の世界金融危機で、金融政策に限界があり、財政支出が大きな役割を果たすことがわかったからだ。欧州ではドイツが均衡財政にこだわったため、不況が長期化した。

日本では黒田日銀の10年にわたる量的緩和が失敗に終わり、金融政策が無効だということが明確になった。著者はリフレ派なのでごまかしているが、2%のインフレ目標が未達に終わったことは黒田総裁も認めた事実である。

他方、財政赤字を悪とみなして財政破綻を警告する経済学者も姿を消し、一定の財政赤字は必要だという議論が出ている。本書は高圧経済と称する財政バラマキを提唱しているが、これはアメリカの2021年以降のインフレをもたらしたという批判が強い。

問題はそもそもマクロ経済政策は必要なのかということだ。あれだけ異常な金融政策を動員しても、日本の長期停滞は変わらなかった。財政もコロナで100兆円以上ばらまいても、貯蓄に回ってしまった。景気循環を財政・金融政策で安定化するという発想に限界があるのではないか。

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