Pursued Economy: Understanding and Overcoming the Challenging New Realities for Advanced Economies (English Edition)
本書は『追われる国の経済学』の改訂版で、中身もほとんど変わらないが、重点の置き方がちょっと違う。前著では経済の成熟した「追われる国」では金融政策はきかないので「最後の借り手」としての政府の役割に重点が置かれていたが、本書では為替レートの役割を強調している。

昔の貿易理論では為替レートは購買力平価で決まり、貿易赤字の国の通貨は弱くなると考えたが、現実には大きな貿易赤字を抱えるアメリカのドルが世界の「一強」になり、ユーロも円も弱くなっている。「正しい為替レート」を決める理論は存在しないが、その動きを説明するのは実質金利の均等化である。

日本の長期金利は2010年代、実質金利でみると、ほぼ一貫してマイナスだった。アメリカの実質金利はこれより2~3%高かったので、投資家は円を売ってドルを買う。黒田日銀はゼロ金利の円資金を大量に供給したが、これがドルに転換され、円安が進んだ。

結果的に投資機会の少ない日本から、資金需要の旺盛なアジアの新興国に直接投資が増え、製造業の空洞化が起こった。これは黒田総裁にとっては意図せざる結果だった。彼は円安で輸出が増え、景気がよくなると思ったのだが、その逆に貿易赤字になり、円安が続いても企業は帰ってこなかった。これが今に至る長期停滞の大きな原因である。

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