処理水放出をめぐる騒動で不可解なのは、福島県も地元市町村も了解したのに、福島県漁連という何の権利もない団体が、最後まで粘ったことだ。その組合員は約1300人。これを無視して海洋放出しても、法的には何の瑕疵もないのだが、東電は最後まで説得しようとした。
結果的には、県漁連が反対のまま放出したので意味がなかったようにみえるが、そうではない。あらゆる手をつくしたと漁民が納得することが大事なのだ。今回に限らず原子力行政では、原発再稼動に県知事の了解を求めたり、再処理工場への使用ずみ核燃料搬入に地元市町村の了解を求めたりして、地元の意向が異常に強い。
すべてのステイクホルダーが拒否権をもつのは日本の政治の特徴だが、その原型は意外に古い。本書は全国の村を歩いた民間伝承の記録だが、その重要なテーマは寄り合いである。たとえば著者が村の古文書を貸してほしいと頼むと、村の寄り合いで協議するという。2日たっても返事がないので、寄りあいに同席すると、朝から晩までいろいろな話をしている。
そのうち「この先生も悪い人ではないみたいだから、一つ貸してあげてはどうか」と年寄りがいうと、みんながうなずき、著者が借用証を書くと、年寄りがそれを読み上げて「私が責任を負うから」といって、古文書を渡した。そこまでに3日かかった。
どこの村でも寄り合いの様子は同じで、一つの議題を話し合って多数決を取ることは決してない。いろいろな議題や世間話が何日もとりとめなく続き、全員一致するまで同じ話題が繰り返される。議長は「年寄り」と呼ばれる60歳以上の老人だが、彼が決めるわけではない。
これは現代の企業でもみられる会議の風景だが、意外に普遍的な現象である。クラストルの調査した「国家に抗する社会」でも、原初的な共同体に国家権力はない。首長(年寄りに相当)はまとめ役で、権力をもっていない。まれに権力を行使する首長がいると排除され、殺される。
続きは9月4日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)
結果的には、県漁連が反対のまま放出したので意味がなかったようにみえるが、そうではない。あらゆる手をつくしたと漁民が納得することが大事なのだ。今回に限らず原子力行政では、原発再稼動に県知事の了解を求めたり、再処理工場への使用ずみ核燃料搬入に地元市町村の了解を求めたりして、地元の意向が異常に強い。
すべてのステイクホルダーが拒否権をもつのは日本の政治の特徴だが、その原型は意外に古い。本書は全国の村を歩いた民間伝承の記録だが、その重要なテーマは寄り合いである。たとえば著者が村の古文書を貸してほしいと頼むと、村の寄り合いで協議するという。2日たっても返事がないので、寄りあいに同席すると、朝から晩までいろいろな話をしている。
そのうち「この先生も悪い人ではないみたいだから、一つ貸してあげてはどうか」と年寄りがいうと、みんながうなずき、著者が借用証を書くと、年寄りがそれを読み上げて「私が責任を負うから」といって、古文書を渡した。そこまでに3日かかった。
どこの村でも寄り合いの様子は同じで、一つの議題を話し合って多数決を取ることは決してない。いろいろな議題や世間話が何日もとりとめなく続き、全員一致するまで同じ話題が繰り返される。議長は「年寄り」と呼ばれる60歳以上の老人だが、彼が決めるわけではない。
これは現代の企業でもみられる会議の風景だが、意外に普遍的な現象である。クラストルの調査した「国家に抗する社会」でも、原初的な共同体に国家権力はない。首長(年寄りに相当)はまとめ役で、権力をもっていない。まれに権力を行使する首長がいると排除され、殺される。
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