日本語と西欧語 主語の由来を探る (講談社学術文庫)
日本人は自分が特殊な民族と思いがちだが、最近わかってきたのは、日本人の特徴は意外に普遍的だということだ。その一つの例証が言語である。日本語は「主語が不明で曖昧だ」といわれるが、文に不可欠なのは述語であり、主語を明示しない言語が世界では多数派である。

人類の歴史の99%以上を占める石器時代の集団生活では、集団から離れて生きることは不可能だったので、主語はつねに「われわれ」であり、誰が行動するかを明示する必要はなかった。英語でも古英語には主語はなかったが、1066年のノルマン征服でフランス語が公用語になり、多くの民族が混じる中で、主語が文頭で明示されるようになった。

日本語では、いまだに「あなた」や「彼」という人称代名詞を使うことがほとんどない。能動態と受動態の区別もない。「れる・られる」は受け身だけでなく、尊敬・可能・自発などの意味で広く使われる中動態(中動相)である。

どっちが普通なのか。世界的には、日本語のほうが圧倒的多数派である。主語を明示するのは、インド=ヨーロッパ語族の一部であり、世界のほとんどの言語には主語がない。今ごろ中動態を発見するのは、「私は散文で話していたのか」と驚くモリエールの貴族のようなものだ。

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