中国経済はバブルだから今年は崩壊する、と(期待をこめて)毎年予言されるが、いまだに崩壊しない。それはなぜだろうか。本書はその原因として、次のような特徴をあげる。
中国の生産年齢人口(ニッセイ基礎研)
2は日本と似ている。90年代の日本でも銀行のほとんどは債務超過だったが、護送船団方式だったので、大銀行が破産すると思う人はいなかった。関西の信用組合などが破綻したが、大手22行(都銀・信託・長信銀)はつぶさないという大蔵省の暗黙の債務保証があったからだ。
ところが1997年11月の山一証券の破綻で、そのメインバンクである富士銀行に取り付けが発生して護送船団の神話が崩壊し、その危機が長銀や日債銀に波及して、収拾がつかなくなった。金融危機は不良債権のような資産側ではなく、負債側の取り付けで起こるのだ。中国の場合は、それを政府がコントロールできる。
3は一長一短である。独裁政権の決めた政策は、民意によるチェック&バランスがきかないので、軌道修正がむずかしい。1979年に決まった一人っ子政策をその後30年以上も続けたため、急速な労働人口の減少が起こっている。言論統制が行き届いているので取り付けは防げるが、不良債権が長期化しやすい。
バブルが崩壊しないことが、中国にとっていいかどうかはわからない。もし日本で山一の破綻が起こらなかったら、銀行は追い貸しを続け、「飛ばし」でバランスシートを粉飾する状態が続いただろう。不良債権の清算で100兆円の損失が出たが、清算しなかったら、もっと大きな損失が出ただろう。
中国の不良債権も先送りすると規模が大きくなり、何かのきっかけでクラッシュするリスクがあるが、銀行の破産法制がないので手がつけられない。その最大の被害者は日本で、中国のGDPが1%減ると(貿易や投資の減少で)日本のGDPは0.2%減ると本書は予想している。
しかし中国の銀行はグローバルではないので、それが世界金融危機に波及することはないだろう。この点も日本と似ているが、メインシナリオではない。中国バブルは崩壊せず、ゆるやかなデフレが続くだろうが、それは日本の「失われた10年」よりもっと悪い結果になるおそれが強い。
- 経済成長の「伸びしろ」がある:中国は「世界第2の経済大国」とよくいわれるが、一人あたりGDPは1.4万ドル。まだアメリカの17%の発展途上国である。1980年代の日本の一人あたりGDPがアメリカの80%を超え、20世紀のうちにアメリカを超えるといわれた状況とは違う。
- 貯蓄が多く金融システムが安定している:「一人っ子政策」で子供が減って消費が減り、社会保障も不備なので、貯蓄率は50%近い。外国為替が制限されているので資本逃避もできず、余剰資金は銀行に預金されている。大手銀行は国有なので、政府のコントロールがききやすい。
- 危機に対して超法規的な対応がとれる:民主国家と違って、独裁政権は法の制約を受けない。特に習近平は政治局からライバルを追放し、独裁の傾向を強めている。行政は地方に分権化されているが、官僚は優秀で政権に忠実だ。言論の自由がないので批判もなく、危機管理がしやすい。
金融危機は負債側から起こる
1は言い換えれば、中国はまだ貧しいということで、国内消費が弱い。1979年に始まった一人っ子政策を2013年まで続けたため、生産年齢人口は10億人をピークにして減り始めている。これが長期的には中国の成長を制約する最大の要因となろう。中国の生産年齢人口(ニッセイ基礎研)
2は日本と似ている。90年代の日本でも銀行のほとんどは債務超過だったが、護送船団方式だったので、大銀行が破産すると思う人はいなかった。関西の信用組合などが破綻したが、大手22行(都銀・信託・長信銀)はつぶさないという大蔵省の暗黙の債務保証があったからだ。
ところが1997年11月の山一証券の破綻で、そのメインバンクである富士銀行に取り付けが発生して護送船団の神話が崩壊し、その危機が長銀や日債銀に波及して、収拾がつかなくなった。金融危機は不良債権のような資産側ではなく、負債側の取り付けで起こるのだ。中国の場合は、それを政府がコントロールできる。
3は一長一短である。独裁政権の決めた政策は、民意によるチェック&バランスがきかないので、軌道修正がむずかしい。1979年に決まった一人っ子政策をその後30年以上も続けたため、急速な労働人口の減少が起こっている。言論統制が行き届いているので取り付けは防げるが、不良債権が長期化しやすい。
長引くデフレは日本の90年代より悪い
つまり今の中国は1997年10月までの日本と同じで、過剰債務(特に不動産)で債務超過の状態になっているが、銀行が追い貸しで延命し、それを地方政府が肩代わりしている状態である。これによって金融危機は防げるが、企業が借金を返して投資しないバランスシート不況に陥り、資本収益率が落ちてデフレになる。バブルが崩壊しないことが、中国にとっていいかどうかはわからない。もし日本で山一の破綻が起こらなかったら、銀行は追い貸しを続け、「飛ばし」でバランスシートを粉飾する状態が続いただろう。不良債権の清算で100兆円の損失が出たが、清算しなかったら、もっと大きな損失が出ただろう。
中国の不良債権も先送りすると規模が大きくなり、何かのきっかけでクラッシュするリスクがあるが、銀行の破産法制がないので手がつけられない。その最大の被害者は日本で、中国のGDPが1%減ると(貿易や投資の減少で)日本のGDPは0.2%減ると本書は予想している。
しかし中国の銀行はグローバルではないので、それが世界金融危機に波及することはないだろう。この点も日本と似ているが、メインシナリオではない。中国バブルは崩壊せず、ゆるやかなデフレが続くだろうが、それは日本の「失われた10年」よりもっと悪い結果になるおそれが強い。