岸田政権のスローガンは「資産所得倍増」だが、これは絵空事ではない。金融庁の資料によると、2000年から21年までにアメリカの金融資産は3.4倍になったが、日本は1.4倍にしかなっていない。この差の原因は、日本人の金融資産の54%が現預金だからである。

資産
日米の金融資産の推移(金融庁)

このリスク態度は昔から問題になっているが、私の学生時代とまったく変わらない。ドイツも昔はそういう傾向があったが、今は35%ぐらいだ。実質マイナス金利の日本で半分以上を預金しているのは、先進国には類を見ない異常な現象である。

経済学が生活の役に立つことはほとんどないが、私がたった一つ経済学を勉強してよかったと思うのは、ポートフォリオという概念を知ったことだ。これは次の図のように金融資産のリスクを横軸、リターンを縦軸にとると、リスクが大きいときはリターンも大きい(分散が上がると期待値も上がる)という当たり前の話である。

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ポートフォリオ理論は数学的でむずかしいが、普通の人が勉強する必要はない。この図だけを知っていればいいのだ。

ゼロリスクは最適にならない

ここで銀行預金はリスクゼロでリターン最小なので、左端になる。これに対して株式のリスクもリターンも大きくなるので、右上になり、ポートフォリオ(資産構成)は株式と預金の線形結合(斜めの直線)のどこかになる。

収益率最大の効率的資産フロンティアが図の青の曲線のようになるとすると、効率的な資産は図の接点Aになるが、それに対して投資家の無差別曲線が図の青の点線のようになっているとすると、最適なポートフォリオは一次結合(予算制約)との接点Bになる。

これはAとは必ずしも一致せず、リスク回避的な投資家だと左下の赤の点線のようになり、ポートフォリオはローリスク・ローリターンになる。日本人は極端にリスク回避的なので、預金が選ばれることが多い。

ここで大事なのは、左下の預金は最適ではないということである。効率的なポートフォリオの線形結合は図の直線上で、普通は無差別曲線と接しているが、預金(コーナー解)では無差別曲線と交わるので非効率である(限界代替率が予算制約と一致しない)。

このようにゼロリスクでは大きな損をするというのがポートフォリオ理論の教えだ。その資産をどう配分するかについては細かい議論がたくさんあるが、ゼロリスクの預金が最適になることはまずない。これが日本人の豊かになれない最大の原因である。