あすから日銀の金融政策決定会合が始まるが、外為市場では「植田総裁は動けない」とみて、円安が進行している。コアCPIは3%台で頭打ちになり、日銀が利上げ(YCC上限引き上げ)で抑制する必要はないからだ。もともと今のインフレの最大の原因はウクライナ戦争による資源価格の上昇というグローバルな供給ショックであり、日銀がコントロールできない。

むしろ本質的な問題は、このインフレが長期的に続くのかということだ。1990年以降のdisinflationは、冷戦終了後の大収斂の結果である。歴史の大部分で世界の最先進国は中国だったが、19世紀以降の大分岐でヨーロッパが逆転した。

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世界のGDPに占める先進国(G7)のシェア

大分岐をもたらしたのは、物のアンバンドリングだった。ローカルに閉じていた伝統社会がヨーロッパ諸国の植民地支配で統合され、商品は国際的に流通する一方、生産技術などの情報は国内に閉じていたので、東西の格差が広がった。

それに対して大収斂をもたらしたのは、情報のアンバンドリングだった。コンピュータや通信の発達でグローバルな情報の流通コストが下がり、高賃金国から技術をアンバンドルして低賃金国に移転する水平分業が急速に進んだ。これによってアジアが豊かになり、1820年から上がっていた先進国のGDPシェアが、1990年から下がり始めた。

日本の賃金が上がらない最大の原因も、このような情報のアンバンドリングによる要素価格均等化である。図のように1995年には中国の約8倍だった日本の単位労働コスト(名目賃金/付加価値)が急速に収斂し、2010年代はほぼ一致した。これはかつて世界の製造業で独占的な地位をもっていた日本の競争力が失われたことを示している。

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各国の単位労働コスト(2015年=100)

そして今、ウクライナ戦争を契機にして、ユーラシア国家と西欧型国家の再分岐が始まろうとしている。それは金融政策でも財政政策でも止められない歴史的な変化である。

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