世間の人はほとんど使わないが、経済学者だけが使う言葉にトレードオフがある。これは予算制約があるとき、一つの目的に資金を使うと他の目的に使う資金が減るという当たり前の話だが、これを理解できない人が多い。
それは日本だけではなく、世界的にも「脱炭素化で成長できる」という夢を売り歩くマスコミや投資ファンドが後を絶たない。ひところ日経新聞が激しく展開した「カーボンゼロ」キャンペーンもその一種だが、今週のEconomist誌は、そういうグリーン成長は幻想だと指摘している。
この手の夢物語の特徴は、気候変動対策でGDPが増えると想定することだ。たとえば政府が水素・アンモニアに補助金を出して価格をLNG以下に下げると、それを輸入する商社や燃やす電力会社はもうかるだろう。経産省は今後15年間で水素・アンモニアに7兆円の補助金を出す予定だが、これは納税者に負担を移転しているだけで、GDPは減る。環境と成長はトレードオフなのだ。
2030年には世界のCO2の半分以上は途上国(中国を除く)から排出されるようになるが、彼らにはそれを削減する財政的余裕がない。図のように世界の気候投資の8割は欧米やアジア太平洋で行われ、南米やアフリカにはほとんど投じられない。洪水などで最大の被害を受ける国にはインフラ投資する資金がないのだ。
だから現実的な適応は、洪水や干魃の多い地域からの気候難民である。2050年までに全世界で4400万人から2.2億人が気候難民になると推定されているが、そのほとんどは都市への国内移動である。
問題は温暖化ではなく、それによって人々の健康が悪化することなので、病院のない地方から都市に人口が移動することは悪くない。むしろ途上国の政府は都市への人口移動を促進し、都市のインフラを整備すべきだ。
これはグローバルサウスにとって大きな試練だが、それを脱炭素化で防ぐことはできない。気候変動の被害を少しでも減らすには、グローバルな政府支出の費用対効果(これも経済学者以外は知らない言葉)を考え、開発援助のあり方を考え直す必要がある。
それは日本だけではなく、世界的にも「脱炭素化で成長できる」という夢を売り歩くマスコミや投資ファンドが後を絶たない。ひところ日経新聞が激しく展開した「カーボンゼロ」キャンペーンもその一種だが、今週のEconomist誌は、そういうグリーン成長は幻想だと指摘している。
この手の夢物語の特徴は、気候変動対策でGDPが増えると想定することだ。たとえば政府が水素・アンモニアに補助金を出して価格をLNG以下に下げると、それを輸入する商社や燃やす電力会社はもうかるだろう。経産省は今後15年間で水素・アンモニアに7兆円の補助金を出す予定だが、これは納税者に負担を移転しているだけで、GDPは減る。環境と成長はトレードオフなのだ。
2030年には世界のCO2の半分以上は途上国(中国を除く)から排出されるようになるが、彼らにはそれを削減する財政的余裕がない。図のように世界の気候投資の8割は欧米やアジア太平洋で行われ、南米やアフリカにはほとんど投じられない。洪水などで最大の被害を受ける国にはインフラ投資する資金がないのだ。
「気候難民」は必ずしも悪いことではない
最大の問題は、途上国の適応だが、現実には途上国にはインフラ整備で洪水を防ぐ資金はなく、先進国も他国の防災問題には興味がない。おかげでこれは政治的には地味で、脱炭素化のようにセクシーな話題にはならない。だから現実的な適応は、洪水や干魃の多い地域からの気候難民である。2050年までに全世界で4400万人から2.2億人が気候難民になると推定されているが、そのほとんどは都市への国内移動である。
問題は温暖化ではなく、それによって人々の健康が悪化することなので、病院のない地方から都市に人口が移動することは悪くない。むしろ途上国の政府は都市への人口移動を促進し、都市のインフラを整備すべきだ。
これはグローバルサウスにとって大きな試練だが、それを脱炭素化で防ぐことはできない。気候変動の被害を少しでも減らすには、グローバルな政府支出の費用対効果(これも経済学者以外は知らない言葉)を考え、開発援助のあり方を考え直す必要がある。