私がかねがね不思議に思っているのは、旧一電(9電力)が電力を限界費用でJEPX(卸電力市場)に卸す慣行である。初等的な経済学では「価格は限界費用に等しくなる」と習うが、これは固定費ゼロの完全競争の世界だ。電力のように固定費の大きな財を限界費用(火力の場合は燃料費)で売ったら固定費が回収できなくなる。

これは新聞を紙の値段で売るようなもので、朝日新聞を1円で売ったら、朝日新聞社はたちまちつぶれるだろう。ところがエネ庁は自主的取組と称して、旧一電が余剰電力をすべて限界費用で卸すよう強要しているのだ。


これを「非対称規制」と呼ぶ人がいるが、これは法律でも省令でもないので規制ではない。これは原子力規制委員会が安全審査のために原発を止めているのと同じ超法規的な行政指導であり、無視してもいいのだが、旧一電は今もそれに従っている。

特に問題なのは、LNGの在庫がなくなって需給が逼迫したときだ。停電を避けるには小売り業者はどんな価格でも買うので、供給曲線が垂直になって卸値が大幅に上がるスパイクが起こる。これが2021年1月の電力値上がりで、一時は200円/kWh以上の卸値がついた。

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これはそれほど異例の現象ではなく、太陽光が使えない夜間や雨の日にも需給が逼迫するので、旧一電がこのようなスパイクで火力の卸値を上げて固定費を回収するのが、電力自由化の制度設計だった。

ところが需給が逼迫しても限界費用で卸すようエネ庁が指導したため、旧一電は固定費を回収できず、赤字になって火力をどんどん廃止しているのだ。それが電力需給が逼迫し、電気代が上がる原因である。

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