日経新聞に掲載された松村敏弘氏の記事が「意味がわからない」とか「ポエムだ」と、電力業界で話題になっている。私もさっぱりわからなかった。
これは意見が違うという意味ではない。電気料金が大幅に上がる一方で供給が不安定化している現状を、電力システム改革を設計した松村氏がどう考えているのか、何も書いてないからだ。彼は最大の原因は電力会社のカルテルだというが、これは本末転倒である。
図1
電力自由化の目的は安定した電力を安く供給することであり、競争はその手段にすぎない。2016年から段階的に発送電分離が始まり、2020年に完成したが、その後、電気料金はほぼ2倍になった。この原因がウクライナ戦争以後のLNG価格の上昇だと思っている人が多いが、図のように電気代の上昇は戦争の前から始まっていたのだ。
図2 エネルギー白書より
図3 火力発電所の設備容量の推移(万kW)資源エネルギー庁
これは経済学でよく知られているホールドアップ問題で、その原因は過去の投資をサンクコストとして無視することだ。特に日本では、限界費用で卸す行政指導をしているため、火力の固定費を回収する手段がない。
この問題を解決する第一の方法は、垂直統合である。送電会社が発電会社を買収すれば、全体最適が実現できる。これが昔の総括原価方式だが、独占価格が設定されるので、発電会社と分離して競争させるのが発送電分離である。
これは通常は設備過剰になっているときやるもので、経産省が原発が止まって供給が逼迫しているときやったのは、原発事故で東電が国有化され、民主党政権が反原発を打ち出し、力のバランスが経産省に大きく傾いたためだ。2000年代からの宿願だった発送電分離を火事場泥棒的に決めるお先棒をかついだのが、松村氏と八田達夫氏だった。
発送電分離は、火力発電のように発電設備の独立性が高い場合は最適の投資水準を実現できるが、再エネのようにベースロード電源との補完性が高くなると、悪天候の日や夜間は火力や原子力がないと送電できない。2021年初めのようにLNGの在庫が少ないと卸値の暴騰が起こり、新電力がつぶれる。
この問題を解決する第二の方法は、発送電分離のままで再エネと火力を水平統合し、一つの発電会社の中で供給の安定性を保証することだ。そのためには新電力にも24時間の供給保証を義務づけ、それができない業者は旧一電が買収すればいい。
図4 容量市場のしくみ(資源エネルギー庁)
河野太郎氏や再エネ議連は、このような改革に「火力を温存して競争を阻害する」と反対しているが、目的は低価格と安定供給であり、競争促進は手段にすぎない。2016年の電力自由化で、図1のように価格は上がり、供給は不安定になった。
新電力は送配電会社(東電の場合はパワーグリッド)の所有権分離を主張しているが、それによって転売屋の新電力がいくら増えても、供給は安定しない。送配電会社の所有権を分離するなら、再エネと火力発電は水平統合し、安定供給を確保する必要がある。
大手電力間の競争、機能せず 電力システム改革の課題 – 日本経済新聞 2023年5月24日 5:00 https://t.co/TyHs4CiXmU #clip_energy
— CLIP Energy (@clipenergy) May 24, 2023
これは意見が違うという意味ではない。電気料金が大幅に上がる一方で供給が不安定化している現状を、電力システム改革を設計した松村氏がどう考えているのか、何も書いてないからだ。彼は最大の原因は電力会社のカルテルだというが、これは本末転倒である。
図1
電力自由化の目的は安定した電力を安く供給することであり、競争はその手段にすぎない。2016年から段階的に発送電分離が始まり、2020年に完成したが、その後、電気料金はほぼ2倍になった。この原因がウクライナ戦争以後のLNG価格の上昇だと思っている人が多いが、図のように電気代の上昇は戦争の前から始まっていたのだ。
図2 エネルギー白書より
サンクコストの無視が過少投資をもたらす
その最大の原因は供給不足である。電力自由化の目的は過剰投資になりがちな電力業界の投資を効率化することなので、これは松村氏の制度設計の結果ともいえる。その結果、今後まったく火力への投資がなくなり、2030年までに1236万kWの火力が廃止される過少投資が起こったのだ。図3 火力発電所の設備容量の推移(万kW)資源エネルギー庁
これは経済学でよく知られているホールドアップ問題で、その原因は過去の投資をサンクコストとして無視することだ。特に日本では、限界費用で卸す行政指導をしているため、火力の固定費を回収する手段がない。
この問題を解決する第一の方法は、垂直統合である。送電会社が発電会社を買収すれば、全体最適が実現できる。これが昔の総括原価方式だが、独占価格が設定されるので、発電会社と分離して競争させるのが発送電分離である。
これは通常は設備過剰になっているときやるもので、経産省が原発が止まって供給が逼迫しているときやったのは、原発事故で東電が国有化され、民主党政権が反原発を打ち出し、力のバランスが経産省に大きく傾いたためだ。2000年代からの宿願だった発送電分離を火事場泥棒的に決めるお先棒をかついだのが、松村氏と八田達夫氏だった。
発送電分離は、火力発電のように発電設備の独立性が高い場合は最適の投資水準を実現できるが、再エネのようにベースロード電源との補完性が高くなると、悪天候の日や夜間は火力や原子力がないと送電できない。2021年初めのようにLNGの在庫が少ないと卸値の暴騰が起こり、新電力がつぶれる。
この問題を解決する第二の方法は、発送電分離のままで再エネと火力を水平統合し、一つの発電会社の中で供給の安定性を保証することだ。そのためには新電力にも24時間の供給保証を義務づけ、それができない業者は旧一電が買収すればいい。
「容量市場」の活用
以上は政治的には困難なので、第三の道は2024年から実施される容量市場からの購入を義務づけることだ。これは火力発電の固定費を回収するために、将来その設備を使うオプションを取引して、古い火力を延命するものだ。新電力が容量市場で設備を買えば、火力の設備が温存されて停電が避けられる。図4 容量市場のしくみ(資源エネルギー庁)
河野太郎氏や再エネ議連は、このような改革に「火力を温存して競争を阻害する」と反対しているが、目的は低価格と安定供給であり、競争促進は手段にすぎない。2016年の電力自由化で、図1のように価格は上がり、供給は不安定になった。
新電力は送配電会社(東電の場合はパワーグリッド)の所有権分離を主張しているが、それによって転売屋の新電力がいくら増えても、供給は安定しない。送配電会社の所有権を分離するなら、再エネと火力発電は水平統合し、安定供給を確保する必要がある。