習近平・独裁者の決断
ロシアがウクライナを侵略するよりずっと前に、中国は台湾を侵略する予定だった。1950年6月4日に中国は台湾を攻撃する準備をしていたが、その2日前に北朝鮮が韓国を侵略し、朝鮮戦争が始まった。スターリンは毛沢東に北朝鮮を支援するよう命じ、台湾攻撃は延期された。

朝鮮戦争さえなければ、今ごろ中国は台湾を併合していたはずだが、中国はそれから73年も攻撃を延期してきた。その最大の理由は、アメリカとの戦力の差が大きかったからだ。その差が縮まった今、習近平が台湾攻撃をためらう理由はない、というのが2人の著者の一致した見方である。

昨年の共産党大会で胡錦濤以下の反対派を一掃した習近平にとって、今は絶好のチャンスである。石氏によると、台湾が領土ではないと思う中国人はいないという。反政府的な知識人でも、台湾が中国の領土であることは自明だと思っているので、台湾攻撃で国論が二分することはない。

西南交通大学学生悼念乌鲁木齐火灾逝者_10
白紙革命(Wikipedia)

むしろ昨年11月の白紙革命以来、国内情勢が不安定になっているので、矛先を台湾に向ける可能性がある。攻撃するとすれば、いつか。峯村氏によると、アメリカ大統領選挙で政治空白のできる2024年だという。

台湾有事は「東京有事」

もちろん戦争による損害は大きいが、中国では伝統的に戦争被害は気にしない。朝鮮戦争でも人民解放軍には100万人の犠牲者が出たといわれるが、毛沢東の権力は磐石だった。戦争の目的は最高権力者(19世紀までは皇帝)を守ることなので、人的被害も経済的損失も問題ではない。

習近平にとって最大の脅威は、孫文が「数億人の乾いた砂」と呼んだ利己的な中国人が、白紙革命でまとまったことだ。彼らが不満を表明したゼロコロナ政策が、わずか1ヶ月で打ち切られたのは、習近平が民衆反乱を恐れていたことを示している。

いったん運動は鎮静化したが、中国経済の減速は止まらない。一人っ子政策を撤回しても、出生数は2016年から2022年までの6年間で半減し、総人口は1961年以来初めて減少した。一人っ子政策の影響は止まらず、このままでは人口減少で経済成長が危うくなってきた。

昨年の共産党大会の政治報告で、習近平は「祖国の完全統一は必ず実現せねばならず、必ず実現できる」と宣言した。ここでは「平和的な統一」とは言っておらず、武力行使を排除していない。したがって次の党大会の開かれる2027年までに台湾を攻撃しなければならない。

そのとき主要な敵は日本ではなく、アメリカである。日本が防衛費2%などでごたごたして準備ができていない今が、攻撃のチャンスである。峯村氏は「私が習近平だったら、きょうやる」という。現状では自衛隊を台湾に派遣するかどうかもはっきりしないので、台湾が攻撃されたら、まず行くのは、沖縄の海兵隊である。

これに対して中国はどう反撃するか。就任後初めて記者会見した中国の呉江浩・駐日大使は台湾有事の議論を批判して「日本が台湾問題を安全保障政策と結び付ければ、日本の民衆が火の海にひきずり込まれることになる」と発言した。これは明白な核兵器による威嚇である。

特にねらわれるのは東京だから、台湾有事は東京有事である。米軍に頼るのではなく、自衛隊の防空体制を強化する必要がある。またサプライチェーンが寸断されたときのために、半導体などは自給自足できる体制が必要だろう。