社会主義計算論争は1920年代に始まった。30年代の世界恐慌の現実は、資本主義の「見えざる手」が機能しないことを示し、社会主義の優越性は明らかなようにみえた。多くの進歩的な経済学者は、理論的には社会主義のほうが資源の効率的な配分を実現できると考えた。
しかしハイエクは、それにほとんど一人で反対した。市場経済で処理される情報は膨大であり、それを政府がすべて計算することはできない。現実の社会主義は政府が命令する統制経済であり、それはファシズムに近づいている。
だが30年代に主流だったのは、ケインズの計画経済的な手法だった。それに反対するハイエクは保守反動とみなされ、ヨーロッパでは大学に職を得られなかった。アメリカに渡り、本書がようやく1944年に発表されたときも学界では黙殺された。
それは冷戦期には世界を二分するイデオロギー対立となったが、その結果は明らかだ。しかし社会を計画的に運営したいという統制経済の誘惑は、今も世界的に強まっている。2019年に国連で、グレタ・トゥーンベリはこう演説した。

人類は全面的な危機に直面しており、無政府的な資本主義はそれを解決できない。エリートが社会を計画的に運営して経済成長を止め、人類を救わなければならない――彼女の正義感は100年前の社会主義と驚くほど似ているが、かつてそれは近代史上最大の悲劇をもたらした。人類は同じ過ちを繰り返すのだろうか。
続きは5月15日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)
しかしハイエクは、それにほとんど一人で反対した。市場経済で処理される情報は膨大であり、それを政府がすべて計算することはできない。現実の社会主義は政府が命令する統制経済であり、それはファシズムに近づいている。
だが30年代に主流だったのは、ケインズの計画経済的な手法だった。それに反対するハイエクは保守反動とみなされ、ヨーロッパでは大学に職を得られなかった。アメリカに渡り、本書がようやく1944年に発表されたときも学界では黙殺された。
それは冷戦期には世界を二分するイデオロギー対立となったが、その結果は明らかだ。しかし社会を計画的に運営したいという統制経済の誘惑は、今も世界的に強まっている。2019年に国連で、グレタ・トゥーンベリはこう演説した。
人々は苦しんでいます。死んでいます。生態系は崩壊しています。私たちは、大量絶滅の始まりにいるのです。なのに、あなた方が話すことは、お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。よくもそんなことがいえますね!

人類は全面的な危機に直面しており、無政府的な資本主義はそれを解決できない。エリートが社会を計画的に運営して経済成長を止め、人類を救わなければならない――彼女の正義感は100年前の社会主義と驚くほど似ているが、かつてそれは近代史上最大の悲劇をもたらした。人類は同じ過ちを繰り返すのだろうか。
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