
中部原子力懇談会で「GXと成長戦略」という講演をした(動画再生は13日まで)。これはGX(脱炭素化)で日本経済がどうなるかという話だが、その結論は脱炭素化でGDPは下がるということである。
これはノードハウスの次の図でわかる。脱炭素化とはCO2排出を減らすことだから、その方法は理論的には炭素税に帰着する。今のFIT賦課金も、化石燃料のコストを電力利用者に負担させて電力消費を抑制する炭素税の一種である。

いま自然体のGDPの変化が図の下の曲線だとすると、炭素税率が上がると化石燃料の消費が減り、GDPは下がるが、それによってCO2排出量は減り、気温上昇が抑制されると生活が快適になり、真の所得(上の曲線)は上がる。
しかし快適な環境は外部効果なので、GDPで計測できない。たとえばガソリンの価格が安いのは、大気汚染やCO2排出などの外部効果が反映されていないためだから、それに課税して自動車に乗る人が減ると、真の所得が上がる。それが最大になるのが最適値である。
それを実現する炭素税の水準がどの程度かはいろいろな試算があるが、3500人の経済学者が提案するのは世界一律に40ドル/トンの炭素税である。これによって個別の企業がもうかる可能性はあるが、化石燃料の消費が減るのでGDPは下がる。GXで成長するなどという話は、役所や日経新聞のまやかしなのだ。
3℃上昇が最適水準
この最適値を実現する炭素税(温室効果ガスの排出規制)の水準は、ネットゼロの排出量とも1.5℃上昇とも一致しない。そんな数値目標は無意味である。目的は生活の快適性(真の所得)を最大化することであって、地球の気温を下げることではないからだ。それはどれぐらいか。ノードハウスの計算では、最適な排出規制の水準は将来の損害と現在の防止コストが等しくなる値である。2018年のノーベル賞講演で彼の発表したシミュレーションは、次のようなものだ。

将来の損害は100年(あるいは200年)にわたる被害の割引現在価値なので、金利3%で割り引くと、左から2番目の3℃上昇が最適水準となる。これはIPCCの中位シナリオ(自然体)とほぼ一致する。右端の1.5℃上昇は防止コストのほうが損害よりはるかに大きいので、生活水準も快適性も下がる。
他方で2050年ネットゼロを実現する排出規制の水準は、IEAの試算では世界のGDPの5%、日本でいうと25兆円だが、これによって地球の平均気温は0.01℃下がるだけだ。
日本政府のGXでは、現在のFIT賦課金が期限切れになる2028年ごろから「炭素に対する賦課金」に置き換える方針だが、これだと毎年3兆円。ネットゼロには1桁足りない。地球温暖化を防ぐ効果もゼロだが、欧州へのおつきあいとしてはいいのではないか。