Moral Sentiments and Material Interests: The Foundations of Cooperation in Economic Life (Economic Learning and Social Evolution)
エゴイズムを正面きって肯定し、個々人が欲望を最大化する結果が「見えざる手」によって最適の結果をもたらす、というのがアダム・スミス以来の経済学のセントラル・ドグマだが、スミスにはもう一つの(ほとんど読まれない)『道徳感情論』という本がある。

ここで彼は、他者への「共感」がなければ社会秩序は維持できないとしたが、経済学はこれを無視し、利己的な動機だけで秩序(均衡)が成立することを数学的に証明しようとした。しかし一般均衡理論はかえって現実的な条件では均衡は存在しえないことを証明してしまった。超合理的な「代表的個人」を想定する合理的期待仮説も、実証的に棄却される。

経済学者の多くも、合理主義的な経済学に未来はないと思いながらも、学生にはそれを教えている。系統的な理論は今のところそれしかない、というのが彼らの言い訳だが、行動経済学や実験経済学の結果を理論的に説明しようという試みも始まっている。

本書の編著者は、かつて「ラディカル・エコノミスト」として新古典派経済学を批判したが、最近では進化の概念によって経済学の再編成を企てている。そのコアになる概念は互酬性である。これは人類学が、モースの時代から中心概念としてきた贈与を支える原理である。

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