依存的な理性的動物: ヒトにはなぜ徳が必要か (叢書・ウニベルシタス 1076)
マッキンタイアの『美徳なき時代』(1981)はロールズの啓蒙的リベラリズムを批判した名著で、リベラリズム対コミュニタリアニズム論争の出発点となった。だがその批判が透徹したものだったがゆえに、リベラルな個人主義を超える普遍的な価値とは何か、と問われることは避けられない。

著者はその答をアリストテレスに求めたが、これはヨーロッパ中心主義で、普遍的価値にはなりえない。その後も彼は転々と立場を変えたが、その到達点と思われる本書で彼が依拠するのは、なんと動物行動学である。これは突飛な発想のようだが、晩年のデリダが動物をテーマにしたことに通じるものがある。

著者によれば、道徳は人間の生存条件である。個人がそれぞれ利己的に生きるならモラルは必要ないが、人類は今ごろ生存していないだろう。その肉体は貧弱で、類人猿と1対1で戦っても勝てないからだ。人類は相互依存して生きる集団だったがゆえに、生存競争に生き残ったのだ。その集団を維持する感情が道徳である。

人間のように家族より大きな集団で生きる哺乳類は珍しい。霊長類の中でも、ゴリラやチンパンジーは群れをつくらず、絶えず争っている。個体が自分で戦って生きる能力をもっているので、他の個体と協力する必要がないからだ。しかし人間は集団でないと生きられないので、個人を超える価値を共有することが生存の条件なのだ。

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