安倍晋三 回顧録
首相の回顧録というのは、日本では10年ぐらいたってから出るものだが、本書は安倍氏が急逝したため、口述筆記の原稿を本人がチェックしている途中だった。新事実はあまりないが、完成度の低い分だけ、生々しい肉声が残っている。

印象的なのは、財務省に対する敵意である。本書のKindle版で「財務省」を検索すると、71回も出てくる。特に民主党政権を籠絡して消費増税を決めたことを強く非難している。
時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷりと頼ってしまう。菅直人首相は、消費増税をして景気を良くする、といった訳の分からない論理を展開しました。民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが、格好いいと酔いしれていた。財務官僚の注射がそれだけ効いていたということです。
この財務省への強い憎しみがどこから来たのかよくわからないが、第1次安倍内閣ではそれほどでもなかったようだ。出発点は復興増税だという。
経済政策について私にアドバイスをしてくれていた浜田宏一エール大名誉教授や岩田規久男学習院大教授らとやり取りを続けていく中で、金融政策に問題があるという認識を強めていきました。

特に復興増税は、集めたお金を後から使うとはいえ、一時的に吸い上げるわけですから、デフレを加速させてしまう。これは明らかに間違っている。だから金融政策を変えて円高を是正すべきだという主張を衆院選の軸に据えることにしたのです。
復興増税の批判が金融緩和になる論理がわからない。安倍氏の脳内では不景気とデフレがごちゃごちゃになり、財政政策と金融政策を混同していたのではないか。彼の「輪転機ぐるぐる」は、日銀がデフレを招いた財務省の共犯だという思いから来たものらしい。それに対して財務省も反撃し、安倍政権を倒そうとしたという。

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