人類進化論―霊長類学からの展開
社会をゲーム理論の「囚人のジレンマ」にたとえる話がよくあるが、あれは厳密には正しくない。囚人のジレンマでは、支配戦略(すべての場合にとるべき行動)が裏切りしかないので、つねに裏切ることが合理的になる。協力を説明するには長期的関係などの条件が必要だが、大きな集団では一般にそういう条件は満たされない。

動物の行動を説明するのに使われるのは、チキンゲームである。次の図のように猿Aが攻撃して、猿Bが譲歩すると猿Aの利益は1(左下)になるが、逆の場合は-1(右上)になる。両方が攻撃して戦いが続く場合(左上)が最悪なので、それを避けるにはどちらかが譲歩するしかない。

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ほとんどの類人猿の集団では、このような序列ができる。この優劣は、母系集団では生まれつき決まっており、ニホンザルの猿山のような序列ができるが、チンパンジーのような非母系集団では、序列が安定しないため、互いにマウンティングをとろうとして争いが起こりやすい。それを避けるため、序列を固定する遺伝的なしくみができた。

これを伊谷純一郎は規矩と呼んだ。その端的なあらわれが、白目である。人間とチンパンジーの目を比べると、チンパンジーには白目がないので、どっちを向いているかわからない。チンパンジーが対面すると、優位な猿は顔を向けて相手をにらみつけ、劣位の猿は顔をそむける。

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類人猿の脳には生まれたときからこのような規矩が刷り込まれているので、顔を向けてにらみつけることが優位を示す。ところが人間の目は白目がはっきりしていて、顔を向けなくても視線がわかる。これはなぜだろうか。

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