イタリア・マフィア (ちくま新書)
イタリアはソーシャルキャピタル(社会関係資本)の教科書である。ミラノなど北部はパトナムの『哲学する民主主義』が描いたように都市国家以来の市民的公共性が成立し、豊かな工業地帯があるが、シチリアなど南部にはソーシャルキャピタルが欠如し、犯罪が多く貧しい。

その原因は、南部が中世にながくスペインの支配下にあったためだ。スペインはイタリア人の反乱を恐れてコミュニティを徹底的に分断した。その結果、村の対立抗争が起き、治安を守る広域的な警察がなかったため、財産権の保護が成立しなかった。この空白を埋めるため、私的な警察としてマフィアができたのだ。

しかし安全という公共的なサービスを市場メカニズムにゆだねることは危険である。安全が達成されるとサービスへの需要がなくなるので、市場を維持するためにつねに危険を作り出す。マフィアは顧客の競争相手を暴力的に排除し、抗争を起こすことによって安全への需要を作り出すのだ。

公共インフラがこのように私的に独占されると、すべての人々がマフィアに従わないと生きていけなくなる。警察も教会も、マフィアの暴力には勝てない。検事にも裁判官にも、容赦ないテロが繰り返される。それと対決すべき政府の首脳にも、ベルルスコーニのようなマフィアと関係のある人物が就任し、「マフィアとの共存」を呼びかける。

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