いまだに私のTLに次の図が流れてくる。先日も池戸万作氏と成田悠輔氏の討論で、成田氏がこの図を批判していた。アトキンソン氏も何度もこれを批判しているが、その論理がおかしい。
この図は島倉原氏が2021年に描いたものだ。彼はこれが「財政支出伸び率がゼロだったからGDP成長率がゼロだった」という因果関係を示すものだというが、散布図は相関関係を示すだけで、因果関係の証拠にはならない。
因果関係を示すためには、そのしくみを明らかにする必要がある。この図の横軸は「一般政府部門の投資と消費の合計」となっているが、これは政府支出ではなく(国と地方の)歳出である。正確に書くと、GDPをY、消費をC、投資をI、歳出をG、純輸出をXとして、支出面からみると
Y=C+I+G+X・・・(1)
これを所得面からみると、貯蓄をS、税をTとして
Y=C+S+T・・・(2)
(1)と(2)よりISバランスは
S-I=(G-T)+X
つまり総需要を拡大する政府支出は、歳出から税収を引いた財政赤字(G-T)である。歳出が100兆円で税収も100兆円なら財政赤字はゼロなので、政府は民間の経済活動に中立だが、歳出が110兆円だったら財政赤字は10兆円増える。他方、税収を90兆円に減らすと(貯蓄を除いて)財政赤字は10兆円増える。財政バラマキも減税も同じなのだ。
左辺(S-I)がゼロなら政府は中立であることが望ましいが、日本では左辺が恒常的にプラスなので、この投資不足を財政赤字(G-T)で埋める必要がある。
国民経済計算では各部門の支出を単純に集計してGDPを算出するが、マクロ経済学では政府純支出(財政赤字)で需要不足を埋める効果を考える。だから島倉氏の図を正しく描くと、日本の「政府支出」の累計すなわち政府債務と実質成長率は、次の図のように逆相関になっている。

つまり財政のデータはMMTの主張とは逆に、政府支出を増やしても成長率は上がらないという事実を示しているのだ。
おかげで島倉氏のいうように公的資本形成(公共事業費)は、1997年の45.4兆円から2015年には26.7兆円に減っている。彼が「公共事業を増やせ」という気持ちはわかるが、現実にはもう公共事業費の新規事業はほとんどない。あるのは昨年末に増えた防衛関連事業ぐらいだろう。
結果的に需要不足(貯蓄>投資)が続いているが、これは政府支出では解決しない。歳出(国債発行)を増やしても、そのほとんどは赤字の激増する老人福祉に使われるので、需要創出効果が乏しいからだ。
社会保障の赤字が増えたのも公共事業が減ったのも、原因は超高齢化という同じ原因である。高齢化そのものは防ぐことができないが、そのコスト負担が現役世代に片寄っているため、婚姻率や出生率が減り、さらに低成長になっている。
この構造を是正しないで、公共事業を増やして日銀が国債を引き受ければ成長できるというMMT(および今は亡きリフレ派の残党)の主張は、金利が上がり始めた今は信じる人も少ないと思うが、政治家の一部にそれを信じる人がまだいるのは困ったものだ。
積極財政派への致命的打撃
— デービッド・アトキンソン David Atkinson (@atkindm) January 13, 2023
以下の図表を持って、積極財政派は、政府支出を増やせば、経済は成長すると主張する。確かに、そう見える。
私は、この図表はただの相関関係であって、因果関係を示すものではないと主張して来た。
調べると、この図表に決定的な問題点がある。 pic.twitter.com/sXd3jNOAsl
この図は島倉原氏が2021年に描いたものだ。彼はこれが「財政支出伸び率がゼロだったからGDP成長率がゼロだった」という因果関係を示すものだというが、散布図は相関関係を示すだけで、因果関係の証拠にはならない。
因果関係を示すためには、そのしくみを明らかにする必要がある。この図の横軸は「一般政府部門の投資と消費の合計」となっているが、これは政府支出ではなく(国と地方の)歳出である。正確に書くと、GDPをY、消費をC、投資をI、歳出をG、純輸出をXとして、支出面からみると
Y=C+I+G+X・・・(1)
これを所得面からみると、貯蓄をS、税をTとして
Y=C+S+T・・・(2)
(1)と(2)よりISバランスは
S-I=(G-T)+X
つまり総需要を拡大する政府支出は、歳出から税収を引いた財政赤字(G-T)である。歳出が100兆円で税収も100兆円なら財政赤字はゼロなので、政府は民間の経済活動に中立だが、歳出が110兆円だったら財政赤字は10兆円増える。他方、税収を90兆円に減らすと(貯蓄を除いて)財政赤字は10兆円増える。財政バラマキも減税も同じなのだ。
左辺(S-I)がゼロなら政府は中立であることが望ましいが、日本では左辺が恒常的にプラスなので、この投資不足を財政赤字(G-T)で埋める必要がある。
本当の「政府支出」と成長率は逆相関
日本ではこの意味での財政支出の伸び率はゼロどころか、1990年度の9.2兆円が2022年度には45.1兆円と5倍になった。国民経済計算では各部門の支出を単純に集計してGDPを算出するが、マクロ経済学では政府純支出(財政赤字)で需要不足を埋める効果を考える。だから島倉氏の図を正しく描くと、日本の「政府支出」の累計すなわち政府債務と実質成長率は、次の図のように逆相関になっている。

つまり財政のデータはMMTの主張とは逆に、政府支出を増やしても成長率は上がらないという事実を示しているのだ。
社会保障支出を削減しないと成長できない
この30年、政府支出が増えても成長しなかった最大の原因は、非生産的な社会保障関係費(社会保障特別会計の赤字の穴埋め)が一般会計の中で膨張したからだ。今ではこれが一般歳出(裁量的経費)の半分以上を占める。おかげで島倉氏のいうように公的資本形成(公共事業費)は、1997年の45.4兆円から2015年には26.7兆円に減っている。彼が「公共事業を増やせ」という気持ちはわかるが、現実にはもう公共事業費の新規事業はほとんどない。あるのは昨年末に増えた防衛関連事業ぐらいだろう。
結果的に需要不足(貯蓄>投資)が続いているが、これは政府支出では解決しない。歳出(国債発行)を増やしても、そのほとんどは赤字の激増する老人福祉に使われるので、需要創出効果が乏しいからだ。
社会保障の赤字が増えたのも公共事業が減ったのも、原因は超高齢化という同じ原因である。高齢化そのものは防ぐことができないが、そのコスト負担が現役世代に片寄っているため、婚姻率や出生率が減り、さらに低成長になっている。
この構造を是正しないで、公共事業を増やして日銀が国債を引き受ければ成長できるというMMT(および今は亡きリフレ派の残党)の主張は、金利が上がり始めた今は信じる人も少ないと思うが、政治家の一部にそれを信じる人がまだいるのは困ったものだ。