極限の思想 バタイユ エコノミーと贈与 (講談社選書メチエ)
バタイユは、古典派経済学のような生産と交換にもとづく限定エコノミーの概念に対して、浪費と贈与にもとづく一般エコノミーを提唱した。前者は、たかだかこの300年ぐらいの西欧圏にしか通じない経済学だが、後者は石器時代からの人類の経済行動を説明するものだ。

限定エコノミーで人々が求めるのは有用性(utilité)だが、一般エコノミーでは栄光(gloire)である。共同体の首長が村中の人を集めて宴会を開き、全財産を浪費するとき、彼は栄光を得て、人々に貸しをつくる。宗教的な儀礼にも有用性はないが、それに協力する人々は共同体のメンバーであることを確認する。

それは進化ゲーム理論でいうと、コミュニケーションで味方と協力し、敵とは戦う秘密の合言葉(secret handshake)と呼ばれる戦略である。この戦略は強力で、囚人のジレンマやチキンゲームを一般化した共通利益ゲームでは、つねに贈与で最適解が実現できる。贈り物は、この合言葉である。贈られた人は返礼の義務を負い、返さないと村から追放される。

このとき贈り物が有用である必要はない。むしろ村の外では価値のない土偶のような浪費が望ましい。有用な物は返礼しないで持ち逃げできるが、土偶を持ち逃げしても、村の外では役に立たないからだ。限定エコノミーで満たされるのは利己的な欲望だけだが、一般エコノミーでは社会を支える利他的な協力が生み出されるのだ。

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