ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(下) (NewsPicksパブリッシング)
獲得形質は遺伝しないというのは、中学の理科で習う常識だが、最近の生物学では自明ではない。もちろん文化が遺伝子(DNA)を変えるわけではないが、どういう個体が多くの子孫を残せるかを決め、間接的に遺伝形質を変える。

たとえば人類(ホモ・サピエンス)の犬歯は、類人猿に比べて退化し、チンパンジーのように敵を噛み殺すことができない。これは石器の使用(200万年前)で敵を殺せるようになり、火の使用(100万年前)で肉が柔らかくなったことによる進化と考えられる。

もっと最近の例としては、外婚制(近親婚の禁止)がある。これは中国では数千年前からあるが、ヨーロッパでは古代後期からといわれている。その起源については長い論争があるが、外婚制によって親族以外との交流が深まり、国家や宗教ができたと考えられている。

外婚制と宗教には相関があり、大規模な社会ほど外婚制で、普遍主義的な宗教(道徳)をもっている。その典型がヨーロッパで、人口の移動で戦争が増えて親族集団の同一性が崩れたため、普遍主義的なキリスト教だけが共通の価値観になった。

それに対して多くの「未開社会」は内婚制(いとこ婚が可能)で、親族集団の相互交流が少ない。こうした社会では親族集団が閉じているので、キリスト教のような普遍主義的な宗教はできず、地域ごとにアドホックな神を信じることが多い。その典型が日本である。

続きは11月21日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)