財務省の宿願だったインボイス制度が、また骨抜きになりそうだ。今までの報道では「売り上げ1億円以下の事業者」はインボイスなしで税額控除する経過措置を設けるといわれているが、もともとこれは1989年に消費税が創設されたとき、施行される予定だった制度を2023年まで延期したものだ。

大型間接税は、多くの内閣を倒してきた「呪われた税」である。1979年に大平内閣が「一般消費税」の導入を閣議決定したが、総選挙で大敗して大平首相は退陣した。中曽根首相は「大型間接税はやらない」と約束して総選挙に勝ったあと、1987年に売上税法案を国会に提出したが、野党の反発で廃案になった。

1970年代に大蔵省が一般消費税を企画した最大の理由は、財政赤字への危機感だった。所得税や法人税を引き上げるのは限界に近づいており、捕捉率の高いEUの付加価値税(VAT)が理想だと考えて大蔵省は自民党に根回しした。ところが80年代後半にはバブルで税収が史上最高になり、図のように赤字国債(特例公債)の発行額はゼロになった。

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国債発行額の推移(財務省)

竹下内閣は余った税金の使い道に困り、全国の市町村に一律1億円を配った。他方で3%の消費税を創設したため、反対の大合唱が起こった。大蔵省は所得税を減税して税収中立にしたが、チェーンストア協会などが猛烈な反対運動を繰り広げ、1989年の参議院選挙では社会党が第一党になった。

竹下首相は満身創痍になり、リクルート事件で退陣した。これが政治的なトラウマになり、その後も消費税を上げるたびに内閣が倒れるジンクスができてしまった。

細川内閣と橋本内閣を倒した消費増税

1980年代まで大蔵省は均衡財政主義で、国債の発行をゼロにすることが消費税の目的だったが、80年代後半には財政赤字がなくなったので「直間比率の是正」というわかりにくいスローガンに変えた。その路線を引き継いだのが小沢一郎だった。

1994年に細川内閣が7%の「国民福祉税」を提案したときは、目的が「高齢化時代に社会保障を充実させる」という話にすり替わっていたが、これもタイミングが悪かった。当時はバブルが崩壊して日本は不況に転落していた。

閣議決定もしないで細川首相がいきなり記者会見して増税を発表したため、武村官房長官がこれに反対し、細川首相は一夜でこれを撤回した。これが細川政権の瓦解した原因だった。

それでも大蔵省の粘り強い政界工作は続き、橋本内閣は1997年に3%から5%に増税したが、これも最悪のタイミングだった。その直後に起こった金融危機で大不況に陥り、その原因が消費増税だと誤認されたのだ。橋本首相もこれで退陣した。

このような「事件」が相次いだため、その後の自民党政権は増税を封印してしまった。小泉内閣は求心力もあり、景気も回復したので、増税できる条件はあったが、竹中平蔵氏などの「上げ潮派」が増税に反対したため、増税は17年間できなかった。

財源論から社会保障改革へ

財務省がようやく増税工作に成功したのは、民主党政権の野田内閣だった。このときには社会保障の赤字が最大の問題になり、社会保障と税の一体改革と称して民主党政権を説得したが、これは単なる増税の辻褄合わせだった。

これに従った2014年の8%への増税で景気が悪くなったのも偶然で、駆け込み需要とならすと大した影響はなかったが、心理的な影響は意外に大きかった。安倍首相はこれにこりて、二度にわたって増税を延期し、自民党にも野党にも消費税をきらう心理が定着してしまった。2019年の増税も、結果としては翌年のコロナ不況が深刻化する原因になり、大幅な財政支出を迫られた。

このように増税のたびに事件が起こったのは、消費税が悪いわけではなく、財務省がマクロ経済的なタイミングを考えないで「財政再建」に邁進したことが原因だ。均衡財政主義は、1980年代までのインフレ時代には意味があったが、慢性的に需要不足の続くゼロ金利時代には発想の転換が必要である。

最大の問題は、社会保障(特に老人福祉)である。社会保険料の引き上げには限度があるので、代わりの財源は消費税しかない。EUのように20%程度にすれば、毎年40兆円以上の税収が上がるので、現役世代の負担を減らすこともできる。

もともと付加価値税は富裕層が国境を超えて課税逃避するEUで「誰でも公平に負担する税」としてフランスの社会党などが提唱した税だが、日本では、財務省のミスで消費税が「逆進的だ」と反発を呼び、インボイスさえ予定通りできなくなってしまった。

ゼロ金利では「財政が破綻する」という財務省の危機感が国民に共感を呼ばないので、MMTのいう「税は財源ではない」という話を真に受ける人も少なくない。財源論ではなく、本当の意味で社会保障と一体の改革ができないと、これ以上の増税は困難である。

それには「社会保険」というフィクションをやめ、少なくとも基礎年金は消費税でまかなう最低保障年金のような改革が必要だろう。