NHKの会長が来年1月に交代するが、今までのように首相のお友達がなっても、何もできない。テレビの中身を知らない財界人が、採算ベースで経営できないからだ。NHKがコンテンツ産業で生きていく上で最大のボトルネックは、特殊法人として強い規制を受け、自由なビジネス展開ができないことにある。

金が余っているから受信料を値下げしろという話もあるが、それより余った金でグローバル展開したほうがおもしろい。昔そういう会長がいた。島桂次、通称シマゲジと呼ばれ、もとは宏池会を担当する派閥記者だったが、NC9やNHK特集をつくり、BSを独自放送にした。

彼はルパート・マードックの向こうを張ってNHKを民営化してグローバル企業にしようとし、住友銀行の磯田一郎と一緒にMICOという新会社をつくった。多くの企業が新会社に出資し、島は1991年に「NHKを拠点にして日本から世界にニュースを発信する」というGNN(Global News Network)構想を発表したが、その直後に失脚した。それはNHKのバブル崩壊だった。

NHKブランドをグローバルに生かす

彼が報道局長から会長になった10年あまりは、私が勤務していた時期と重なるが、当時のNHKは今からは想像もつかない活気に満ちていた。島の話は、一見めちゃくちゃのようで、実は先見性があった。当時の経営委員長だった磯田が「NHKの経営陣の中で民間企業も経営できる能力のあるのは島さんだけだ」と評価していた。

島は「メディアがグローバル化する中で、受信料制度では自由なビジネスができない」として、MICOを設立した。地上波は効率が悪いので、テレビは衛星に一元化し、24時間ニュースと教養・娯楽の2チャンネルに再編するつもりだった。報道局以外はプロダクションとして民間に売却しようと考え、組織改革で番組制作局の各部は「**プロダクション」という名前になった。

最終的には、MICOがNHKグループの中心となり、島はMICOの社長になってマードックのように世界のメディア王になることをめざしていた。ただ腹心の海老沢副会長をNHKエンタープライズの社長に左遷したため、海老沢が野中広務に島のスキャンダルを売り込んで失脚し、島の構想は幻に終わった。

島の構想が多分にバブル的だったことは否定できないが、「映像ビジネスが地上波に閉じこもっていては未来はない」という彼の大局観は正しかった。彼は「衛星で100%カバーできるのだから地上波はいらない」といっており、失脚してからはGNN構想をインターネットで実現しようと「島メディア・ネットワーク」というニュースサイトを1994年に設立したが、96年に死去した。

今となっては衛星の電波も必要なく、BBCのようにインターネットでグローバルに展開できる。ホリエモンも言っていたが、地上波のインフラには価値がないが、そのブランド価値は大きい。ましてNHKのブランド価値は民放よりはるかに大きいので、それを梃子にしてグローバル展開すれば、日本のコンテンツ産業が世界に飛躍できるだろう。