道徳の系譜学 (光文社古典新訳文庫)
人間が家畜化した猿だという発想は、19世紀からあった。ダーウィンもそういうことを書いているが、これを哲学的にのべたのがニーチェである。彼は家畜として支配された者が強者をうらむ感情をルサンチマンと呼び、キリスト教は弱者のルサンチマンに訴える「家畜の道徳」だと指摘した。

その起源は、古代ローマ帝国のユダヤ人だという。ユダヤはローマ帝国に征服され、その属領になった。古代には、征服された民族は奴隷になった。奴隷は家畜と同じで、人権は認められなかった。ユダヤ人はたびたび反乱を起こしたが、武力でまさるローマ帝国に勝てなかった。ニーチェはこう書く。
(征服されて捕囚の運命を味わった)ユダヤ人は、精神的な復讐という行為によって満足するしかなかった。(中略)ユダヤ人にとっては、惨めな者たちだけが善き者である。貧しき者、無力な者、卑しき者だけが善き者である。苦悩する者、乏しき者、病める者、醜き者だけが敬虔なる者であり、神を信じる者である。浄福は彼らだけに与えられる。(強調は原文)

これは古代からずっと他民族に支配されてきたユダヤ人の思想だが、抑圧された民衆に共通のルサンチマンである。新大陸に連行された黒人も、家畜として扱われた。この世で救いのない者こそ最初に天国に行くという逆説的な教えが、世界の民衆の心をとらえ、キリスト教は圧倒的な成功を収めたのだ。

続きは10月24日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで(初月無料)