人類の社会性の進化(Evolution of the Human Sociality) (下): 共感社会と家族の過去、現在、未来 (アイカードブック)
20世紀は史上もっとも暴力的な時代だったという通念は誤りである。2度の世界大戦を合計しても、死者は約1億人。世界の人口の4%程度だった。それに対して「石器時代」に人間が殺人で殺された率は平均15%だった。人類は文明の進歩によって史上もっとも安全で豊かな時代に生きているのだ。

このピンカーの啓蒙主義は、今では常識になったようだが、実証的には疑問がある。最近は化石の年代が放射性同位元素で厳密に測定できるようになり、1万年より前の遺跡には戦争の痕跡がないことがわかってきたのだ。旧石器時代の遺跡に個人の頭蓋骨が損傷した人骨はあるが、集団で殺された形跡はない。

それに対して1万年前以降の農耕社会では、戦争の痕跡がたくさん見つかる。平均30%が殺された地域もある。戦争は人類の本質ではなく、限られた土地を奪い合う農耕社会の生んだ行動だから、農耕の終わった現代には、人類は平和共存できるはずだ――というのが日本学術会議の会長だった山極寿一氏の説である。

この性善説は、グレーバーなど最近の人類学の研究でも実証的に確認されている。したがってピンカーの啓蒙主義は誤りだが、山極氏の平和主義が正しいわけでもない。彼の強調する共感能力が有効なのは、ローカルな共同体の中だけであり、ロシアとウクライナの間では成り立たない。

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