通信自由化は「新自由主義」の輝かしいサクセスストーリーである。1984年にAT&Tが分割されたのは司法省との訴訟の和解の結果で、成功すると予想した人は少なかった。規制から解放された長距離電話部門(AT&T)は、コンピュータを開発してIBMと並ぶ巨大企業になるが、各州内の電話網しかない地域電話会社(ベビーベル)は没落すると思われた

ところが現実は逆だった。長距離通信にはワールドコムなど多くの新しい通信業者が参入し、競争が激化してAT&Tは没落したが、ベビーベルは独占利潤を上げ、逆にAT&Tを合併した。特に1990年代にインターネットが発展したとき、新しい通信業者がたくさん出てきて、急速な技術革新が実現した。

多数のパケットを中央でコントロールするシステムはなく、いずれインターネットは渋滞して崩壊すると予言した専門家もいたが、そうならなかった。それは通信が回線交換からパケット交換(蓄積交換)に変わり、混雑してもパケットをルータに蓄積して送り直せる冗長性ができたからだ。

スクリーンショット 2023-02-10 001244
日経XTECHより

それに対して電力自由化は、各国でも大停電が起こったりして成功とはいいがたい。特に日本では、2010年代に再エネFITと一緒にやったため、今の大混乱が起こっている。その違いは何だろうか。

「蓄電」というボトルネック

それは電力が蓄積できないことだ。蓄電技術はあるが、その効率が最大のリチウム電池でも、蓄電コスト(kWh)は発電の1万倍。設備容量(kW)ベースでみても数百倍である。何よりそんなに多くの蓄電池を全国に配備することができない。

それ以外には水素やアンモニアなどの媒体を使う方法があるが、これもコストは火力の10倍以上、揚水発電所は2倍ぐらいだが、もう建設する余地がない。

したがって電力には同時同量の制約があり、これは通信でいうと回線交換と同じくリアルタイムで需給を一致させないといけない。それをコントロールする役割は、今は送配電会社(広域機関)がやっているが、これ自体はインフラをもたないので設備投資はできない。

つまり電話網の中にIPパケットを混ぜ、特定のパケットを優先する制度(FIT)をつくったようなものだ。この需給を一致させるシステムとしては卸電力市場しかないが、ここではFITで利潤を保証されて限界費用の安い再エネが火力を駆逐し、過少投資が起こってしまう。

おまけにエネ庁は「再エネを主力電源とする」というエネルギー基本計画を立て、脱炭素化で、石炭火力を2030年までに100基削減しろという行政指導をした。さすがにこの指導は今回の電力不足騒動で撤回されたが、過少投資はなおらない。このままでは今後も毎年、電力危機が繰り返されるだろう。