4月29日のアゴラの記事について、関係者からコメントをいただいたので、細かいことだが補足しておく(業界関係者以外は読む必要がない)。

全国の原発を止めている田中私案には法的根拠がないが、唯一の根拠とされているのは保安規定(発電所の安全設備などについて電力会社が書いた文書)である。

特重(特定重大事故等対処施設)の審査で、関西電力の美浜3号機では「新規制基準への適合性確認に係る保安規定変更認可申請を行い、本日、原子力規制委員会より認可をいただきました」と書かれている。

関電も保安規定の認可が運転開始の条件だと解釈しているが、これは誤りである。それは原子炉等規制法(第43条-3-24)の条文からも明らかだ。

発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会規則で定めるところにより、保安規定を定め、発電用原子炉施設の設置の工事に着手する前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

安念潤司氏が指摘したように、保安規定は最初に原発を設置するときの規定で、運転とは無関係である。

テロ対策で原発の運転を止める根拠はない

これは委員会の業務全体にいえることで、設置許可がないと工事はできないが、設置変更許可がなくても運転はできる。「これを変更しようとするときも、同様とする」という条文も、設備の変更に許可が必要だという当たり前のことを書いているだけで、運転とは関係ない。

特重の審査にあたって更田委員長は「テロ対処施設遅延は運転停止を命じる」と述べたが、委員会にそんな権限はない。保安規定の対象になる特重施設は、原子炉の運転と無関係であり、保安規定の変更認可がなくても、運転できるからだ。

実際には美浜と高浜1・2号機は、地元の同意も得ていたのに、関電が「経過措置期間」が終わる前に、自主的に運転を停止した。このような「根拠なき運転停止」が続く原因は、炉規制法の規定が曖昧だったことにある。

2012年の改正では、第43条-3-24の条文は「保安規定を定め、発電用原子炉の運転開始前に、原子力規制委員会の認可を受けなければならない」となっており、定期検査後の運転開始前に保安規定の変更許可が必要だとも解釈できる。

これは安念氏も指摘したように誤りで、そんなことをしたら、保安規定を変更するたびに原発を止めないといけない。たとえば柏崎刈羽だけでも福島事故の前に73回も保安規定を改正したが、運転は一度も止めていない。

この点は2020年の改正で明確になり、保安規定は最初に1回だけ行う「設置工事」の条件であることが明記されたが、委員会は「再稼動の条件だ」という解釈をとり、電力会社もそれに従っている。

この場合の「施設」を発電所全体と考えると、一部の工事が未完成だと発電所全体を止めないといけないが、規制委員会のガイドラインでも、保安検査は年4回行うことになっており、そのたびに原子炉の運転を止めるはずがない。

保安規定の認可は原子炉や使用ずみ核燃料プールや特重など、施設ごとに行うものであり、特重が未完成だからといって、原子炉を止める法的根拠はない。関西電力の美浜3号機、高浜1・2号機については、すでに福井県が同意して運転が始まった後で、特重の5年の施行期間に間に合わなかったという理由で、更田委員長が停止させた。

「特重待ち」の原発を稼働させるべきだという与野党議員の動きに対して、更田委員長は「要請があれば議論するが、安全に妥協は許されない」としているが、特重で止めているのは違法であり、運転再開を認めることは妥協ではない。