最近の電力危機で、日経も「カーボンゼロ」のキャンペーンをやめておとなしくなったと思ったら、また「太陽光の電気落札価格、火力の半分以下」という記事を書いている。それによると平均落札価格が今年3月の入札で初めて9円台になり、図のように火力を下回ったという。

図表(太陽光の電気落札価格、火力の半分以下 再エネに追い風)

これが本当なら朗報である。ただちにFIT(固定価格買取)を廃止して、自由に競争すべきだ。そうすれば燃料費のかかる火力は、燃料費ゼロの太陽光に勝てないので撤退し、夜間の発電はゼロになる。そのコストは、再エネ業者が負担するのだろうか。

こういう問題が起こるのは、再エネ業者がコモンズ(共有資源)である電力インフラにただ乗りしているからだ。日経は「蓄電池などの付帯設備を考慮しても10円を割る」と書いているが、これは再エネがFITで余った電力を供給している「余剰電力」の市場だ。

太陽光だけで電力を100%供給するには蓄電池が必要だが、産業用蓄電システムで完全に送電を代替するコストは、図のように9.8万円/kWh。火力の1万倍だが、これでも2時間しか蓄電できない。繰り返し使っても、100円以下には下がらない。いま起こっている電力危機の本質的な原因は、このような高コストによる過少投資である。

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業務用の蓄電コスト(エネ庁資料より)

フリーライダーの起こす「コモンズの悲劇」

こういう問題は昔からコモンズの悲劇として知られ、答もわかっている。フリーライダーにコモンズの社会的コストを負担させることだ。たとえば電力供給量をxとし、発電コストC(x)を固定費(設備投資)fと可変費用(燃料費)cxにわけると

 C(x)=f+cx

と書け、限界費用はC'(x)=cだが、固定費用を含めた平均費用はC(x)=f/x+cだから、競争的な市場で価格p*が限界費用cに等しくなると、図のように1単位生産するごとにf/xの損失が発生する。このため競争的な市場では固定費用が回収できず、電力会社は撤退する。

mc

残った発電会社が限界費用を上回る独占価格pmをつけると、電力供給がxmになる。社会的に最適な発電量はx*だから、電気代が上がってx*-xmの過少投資が生じ、図の斜線部分の損失(死荷重)が発生する。

「発電側課金」で解決できる

この問題はシュンペーター以来、論じられてきた収穫逓増の産業に共通の問題である。彼は資本主義の規模が大きくなるにつれて、競争的市場では固定費が回収できないので企業が退出し、独占が発生すると論じた。

電力業界はこのような自然独占の典型なので、総括原価主義で規制が行われてきたが、そこに再エネという平均費用C*(x)の低い業者が参入してきたため、独占価格pmから限界費用cと等しいp*に近づき、火力が退出しているわけだ。

それは競争の実現という点では望ましいが、再エネ業者の限界費用c=p*は安定供給コストfを内部化していない。今までは再エネの限界費用が高かったので実勢価格が独占価格pmより高かったが、再エネの価格低下で両者が逆転すると、過少投資の問題が表面化したのだ。

この問題の解決策は単純である。安定供給のコストをフリーライダーに「課税」すればいいのだ。再エネ業者の「最低保障発電量」に応じて発電側課金すればいい。夜間の発電量ゼロの場合は100%課金し、自前の火力発電所をもつ場合は軽減して、たとえば電力予備率5%になるように最適化すればいい。

容量市場はそういう考え方で、古い火力発電所を廃止しないで、その容量を非常時のために確保するものだが、再エネ議連の反対で2024年からに延期された。エネルギー問題のバランスを回復する上でも、再エネの「本当のコスト」を明らかにすることが重要である。