1ドル=130円になったが、日銀の黒田総裁のきょうの記者会見は、円安を止める気がないことを示している。それは一つの考え方である。円安で輸入インフレが起これば、2%のインフレ目標は達成できる。任期があと1年の彼にとっては最後のチャンスだ。

もう一つの理由は、彼がインフレより円安の効果を重視しているからだろう。物価が2%上がってもほとんど生活に影響はないが、民主党政権時代の1ドル=80円が黒田時代に120円になったことは大きな影響をもたらした。日経平均は8000円から2万円になり、輸出産業は息を吹き返し、インバウンドで観光業は急成長した。

しかし130円以上の円安になると、輸入品の価格が上がって100円ショップはなくなり、電気代やガソリン代は大幅に上がるだろう。インフレ率は2%をオーバーシュートするが、黒田総裁は「安定的に2%」になるまで量的緩和をやめないだろう。

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ISバランス(兆円)と為替レート(右軸)

ここで円安予想が形成され、キャピタルフライトが起こると、2000兆円の家計金融資産の1割でも動けば、一挙に1ドル=150円ぐらいになる可能性もある。これは1985年のプラザ合意のあと「円高で大変だ」と騒がれた時期と同じで、ISバランスが均衡する自然為替レートに近い。では何かいいことがあるだろうか。

東京は「国際金融センター」になれる

まず150円になったら、海外に脱出した日本企業が帰ってくるかもしれない。100円ライターやユニクロのセーターが日本で生産されることはないだろうが、付加価値が高くサプライチェーンの複雑な資本財は戻ってくるかもしれない。特に半導体は中国で生産するリスクが大きいので、多少コストが高くても日本に戻ってくるかもしれない。

外資の対内直接投資は確実に増えるだろう。今でもTSMCが熊本に工場をつくるように、アジアから日本への投資は始まっている。特に台湾は中国リスクが高まる今、日本に拠点を分散しようとする企業が多い。

もう一つは金融である。香港も中国リスクが大きく、脱出する企業が多い。東京が「国際金融センター」になるという構想は、今はだれも相手にしないが、150円になれば可能性はある。

このような(広い意味で)インバウンドの投資を実現するには、法人税などのコストを下げることが重要だ。少なくとも台湾やシンガポールのように15%にし、地方に税源を移譲して実質ゼロも可能にすればいい。

1980年代にも日本への投資ブームがあったが、そのころ日本に進出した外銀は、ほとんどいなくなった。税だけでなく、顧客の囲い込みや監督官庁との関係などの非関税障壁が大きすぎるからだ。逆にいうと、円安はそういう日本を変えるチャンスである。

150円になれば貯蓄超過も財政赤字もなくなり、余剰資金はすべて海外投資されるだろう。資金の利用効率は国内で貯蓄しているよりはるかによくなるので(海外法人の利益を含む)GNPは上がるが、GDPは増えないので、国内の雇用は失われる。円安は一般国民からグローバル企業への所得移転なので、格差が拡大する。それを補うためにも外資の導入が必要だ。