いまだに私のところに毎日、陰謀論者から気持ちの悪いツイートが来る。彼らの共通点は、Qアノン(トランプ陰謀論)と反ワクチンと反ウクライナが出てくることだ。この3つの出来事は独立なのに、なぜいつもワンセットなのかと不思議に思っていたが、本書を読んでその謎が解けた。
この3つだけでなく、冷戦の終了後に起こった世界の悪い出来事の原因は、一つしかないのだ——ディープステート(DS)である。その正体は不明だが、本書によるとユダヤ金融資本と国際共産主義運動とグローバル企業の連合体らしく、BLMもワシントン議事堂乱入事件も新型コロナもDSの陰謀である。
彼らの目的は、DSの中枢であるファイザーなどのグローバル企業のつくるワクチンでもうけることだ。そのねらい通り生物兵器として製造されたコロナは世界に広がり、ワクチンで製薬資本は大もうけした…という類の荒唐無稽な話が続くが、根拠は何も書いてない。DSは無定義語なので、あらゆる人物がDSのエージェントになる。
陰謀論の魅力は、世界の複雑な出来事を一つの原因で単純明快に説明できることだが、それで納得するのは知能の低い読者だけである。本書のようなB級出版社の本ではユダヤ陰謀論は珍しくもないが、著者はウクライナ大使をつとめた元外交官である。普通の外交官は過剰に慎重にものをいうが、そのOBがこんな妄想を断定的に語るのはどういうわけだろうか。
東欧もDSの支配下に置かれ、カラー革命と呼ばれるロシア周辺国の政変は、すべてDSのしくんだものだ。特にウクライナでは、ユダヤ金融資本の資金援助を受けたウクライナ軍がロシア人の住んでいた東部を侵略したため、ロシア軍が反撃し、クリミアを併合してドンバス地方を支配下に置いた。
話に飛躍が多く、その根拠もほとんど示されないのでファクトチェックは不可能だが、外交官としてのキャリアを積んで防衛大学校教授までつとめた人物が、こんな2ちゃんねるレベルの話を繰り返す原因は、本書を読んでもわからない。
一つの答は彼が何らかの精神疾患にかかったと考えることだが、本書の記述はそういう精神病者の書いたものではない。娯楽読み物としてはそれなりによく書けており、ハチャメチャな話の後には「これは私の推測だが」などと逃げを打つことも忘れない。
もう一つの答は、右翼メディアの売れっ子になって、彼の右翼的な信念がだんだん強まったと考えることだ。過去の著作をみても、2010年代初めには『いま本当に伝えたい感動的な「日本」の力』のような普通の本が多いが、WiLLやチャンネル桜など右翼系メディアに出るようになってから過激化し、『アメリカの社会主義者が日米戦争を仕組んだ』といった陰謀論が増える。
これはよくあることで、特にネトウヨ界隈では、穏健な右翼は目立たないので、だんだん過激になる。おかげでまともなメディアには出られなくなるので、ネトウヨの身内で盛り上がってますます過激になる…という悪循環に入る。本書はその行き着いた先である。
ただ著者がウクライナ大使だったのは2005年から3年間だけで、本書の主張の大部分は外交官としての知見とは無関係な、反ユダヤ主義と反共主義の妄想である。エンタメと割り切っているのかもしれないが、これが元大使の肩書きで世界に拡散されると、日本政府の立場が誤解される。外務省は抗議したほうがいいのではないか。
この3つだけでなく、冷戦の終了後に起こった世界の悪い出来事の原因は、一つしかないのだ——ディープステート(DS)である。その正体は不明だが、本書によるとユダヤ金融資本と国際共産主義運動とグローバル企業の連合体らしく、BLMもワシントン議事堂乱入事件も新型コロナもDSの陰謀である。
彼らの目的は、DSの中枢であるファイザーなどのグローバル企業のつくるワクチンでもうけることだ。そのねらい通り生物兵器として製造されたコロナは世界に広がり、ワクチンで製薬資本は大もうけした…という類の荒唐無稽な話が続くが、根拠は何も書いてない。DSは無定義語なので、あらゆる人物がDSのエージェントになる。
陰謀論の魅力は、世界の複雑な出来事を一つの原因で単純明快に説明できることだが、それで納得するのは知能の低い読者だけである。本書のようなB級出版社の本ではユダヤ陰謀論は珍しくもないが、著者はウクライナ大使をつとめた元外交官である。普通の外交官は過剰に慎重にものをいうが、そのOBがこんな妄想を断定的に語るのはどういうわけだろうか。
DSが世界をコントロールする
DSの正体は国際ユダヤ金融資本らしいが、これは中国共産党がトランプの当選を妨害したという陰謀論と矛盾する。そこで本書では中共とDSは昔は対立していたが、和解してトランプを落選させる陰謀をしくんだことになっている。トランプは、DSと戦う最大のヒーローである。東欧もDSの支配下に置かれ、カラー革命と呼ばれるロシア周辺国の政変は、すべてDSのしくんだものだ。特にウクライナでは、ユダヤ金融資本の資金援助を受けたウクライナ軍がロシア人の住んでいた東部を侵略したため、ロシア軍が反撃し、クリミアを併合してドンバス地方を支配下に置いた。
話に飛躍が多く、その根拠もほとんど示されないのでファクトチェックは不可能だが、外交官としてのキャリアを積んで防衛大学校教授までつとめた人物が、こんな2ちゃんねるレベルの話を繰り返す原因は、本書を読んでもわからない。
一つの答は彼が何らかの精神疾患にかかったと考えることだが、本書の記述はそういう精神病者の書いたものではない。娯楽読み物としてはそれなりによく書けており、ハチャメチャな話の後には「これは私の推測だが」などと逃げを打つことも忘れない。
もう一つの答は、右翼メディアの売れっ子になって、彼の右翼的な信念がだんだん強まったと考えることだ。過去の著作をみても、2010年代初めには『いま本当に伝えたい感動的な「日本」の力』のような普通の本が多いが、WiLLやチャンネル桜など右翼系メディアに出るようになってから過激化し、『アメリカの社会主義者が日米戦争を仕組んだ』といった陰謀論が増える。
これはよくあることで、特にネトウヨ界隈では、穏健な右翼は目立たないので、だんだん過激になる。おかげでまともなメディアには出られなくなるので、ネトウヨの身内で盛り上がってますます過激になる…という悪循環に入る。本書はその行き着いた先である。
ただ著者がウクライナ大使だったのは2005年から3年間だけで、本書の主張の大部分は外交官としての知見とは無関係な、反ユダヤ主義と反共主義の妄想である。エンタメと割り切っているのかもしれないが、これが元大使の肩書きで世界に拡散されると、日本政府の立場が誤解される。外務省は抗議したほうがいいのではないか。